※数年後


小さな頃を覚えているか。淡々とした口調でそういう風丸の輪郭はいつの間にか柔らかさを失って、ただシャープな影を落としている。音もしないくらい小さく頷けば、風丸はにっこり笑って、それから俯いた。ガラステーブルの上に置かれた缶ジュースがぽたぽた汗をこぼす。今から彼の言う言葉を、自分はずっと待っていたのかもしれない。
「小さい頃からずっとお前といれて、サッカーできて楽しかったよ。辛いこともあったけど本当に楽しかった。」
切り落とされた髪の毛は、今頃どこかの美容室のくずかごに放り込まれているのだろう。そしていつかは燃やされる。小学校にあった古い焼却炉がふと頭によぎった。嫌なものは何でもかんでもあそこに投げていたあの頃。悪いテストを入れては口封じのため風丸に駄菓子を渡していた。彼はいつも困ったように口を曲げていたが、結局一度も告げ口などということはしなかった。
「あの頃は何にも不安がなかった。でも今は馬鹿みたいに嫌なことが押し寄せてきていつか潰れちまいそうだ。現実的な目で見たら、俺もお前もこのまま生きてけるわけがない。なあ円堂」
目をつむりたくなる様なことはたくさんあった。自分達の関係を公表なんてする勇気はなかったけれど、それが起因の嫌なことも数多くあった。もう互いに疲れたのだ。小さな頃に二人で行った海の塩辛い波の温さも、潜った布団の柔らかさも、小石を蹴った心の軽さも、今や全て失われたものだ。
「俺達もうだめだよ。」
風丸が聞いたことのないくらい冷たい声で言った。それでも彼の顔をぐちゃぐちゃに濡らす涙は昔のままで、だからこそ俺もうろたえて、終いには泣いてしまったのだ。これからは俺達別々なんだって、そう感じて。

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