※大学生
※パラレル


講義を終えた後の充実感をなんと表そうか。深呼吸をすると口に入ってくる空気も、講義の前と後では味が違う気がする。特に今日は嫌いな講義ばかりだった。だが、今日はサッカーの練習は休み。家に帰って何をしよう、やっぱサッカーかなと考えながらホームにたっていると、軽快な音楽が鳴って電車がやって来た。時刻は午後4時半、学生やサラリーマンなど人はそこそこいる。どうにも疲れていた俺は、席に座ろうと乗客が降りてすぐドアに体を滑り込ませた。殆どの席が埋まっている。だが、四人掛けの席の一つが開いていた。小さく礼をしながら席に腰掛ける。他の三人は友人らしく何やら話込んでいた。俺から見て斜め前の青年はドレッドヘアという奇抜な髪型をしているが冷静な話し方をしている。前は一見いかつい顔をした青年だが、何やら間のぬけたことを言っては、俺の隣に座っている長くて白い髪をした青年に突っ込まれている。皆タイプの違う美形で何だか居心地が悪くなった。
「んじゃ次の試合はこういう作戦な。俺寝るから、着いたら起こしてくれ。」
隣の男がそう言うと、前の二人が笑って頷いた。隣の彼は中性的で整った顔に似合わず荒々しい口調で話している。そのギャップが面白く、危うく笑いそうになってしまった。
10分くらい経った頃だろうか。前の男二人もうつらうつらとし始めて一人苦笑していた時だ。隣に温かい感触を感じた。ちらりと横を見ると、さらりとした髪が頬に当たった。隣の青年が俺の肩に頭を預けている。長い睫毛が光に当たって見えて、顔がぶわっと熱くなってきた。
「…もしもーし。」
小さい声で呼び掛けたが、全く起きる気配がない。他の青年に助けを求めようにもこっくりこっくりしている。隣の青年が「ううん」と色気のある声を漏らして、肩にぐりぐりと頭を押し付けてきた。痛い痛い。
「…もう雷門駅じゃん。」
小さく一人言を呟いて、窓の外の見慣れた風景に息を吐く。ずしりと重い右肩を振り払える勇気などない。隣の青年はどの駅で降りるのだろう。皆寝てしまっているからきっと誰も起こしてくれない。
「…困ったなあ。」
ドアがぷしゅうと開いて、どやどやと人が降りていく。それを横目で見ながら、こうなったら俺も寝てしまおうと、目をゆっくり閉じた。


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何か始まった感じの円堂さん


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「見えない臓器の名前は」
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