恋人の家でお泊り、しかも親不在。「どこのギャルゲーだよ!」とヒロトがハンカチを噛み締めていたのも分かる。風介が「ドッキリなんじゃないのか?」と嘲笑っていたのも分かる。俺自体情けないことに、最初この話を聞いた時毛穴から血が出るかと思うほど驚いた。
が、円堂はそんなことを微塵も気にせず、俺の持ってきたDVDを一心不乱に見ている。こんなB級のアクションだかホラーなんだか分からない映画をよく真剣に見られるものだ。円堂はクッションを抱きしめながら、時々悲鳴のような声を出していた。
「これ、そんな面白いか?」
「おう!」
円堂がこちらに目もやらずに返事をしてくる。少しムッとした。DVDに負ける彼氏とかどんだけ価値が希薄なんだ。ムシャクシャして目を閉じる。次第に頭がぼんやりしてきて、睡魔が襲ってきた。
「…晴矢、」
円堂の声でハッと目を覚ます。体を起こすと、円堂が苦笑していた。
「ごめんな、俺一人で盛り上がっちゃって」
いいよ、と欠伸をしながら言うと、円堂は小さく笑った。
「あのさ、晴矢」
円堂が俺の目をじっと見てくる。そういえば、円堂に「晴矢」と呼ばれるのは珍しい。普段は恥ずかしいからという理由で南雲呼びである。
「…いや、やっぱ先に風呂どうぞ、」
珍しく口の動かない円堂がタオルを押し付けてきた。円堂はもう入浴したらしく髪の先が少し濡れていて、服も変わっていた。
「おう」
不思議がりつつもそう呟くと、円堂は顔を赤くしてテレビを見はじめた。煩いだけのバラエティーだった。
「あがったぞ」
部屋に戻り円堂に声をかける。円堂の体が面白いくらい跳ねた。
「あ、うん、おう」
いつもと違いスッキリしない話し方だ。どうした、と言って円堂の横に座る。円堂は耳まで真っ赤だ。
「あ、のさ」
円堂が俺の指を軽く握る。円堂の手はほんの少しだけ汗ばんでいた。
「今日、親、帰ってこないから、さ」
「知ってるよ」
円堂は俺の返事を聞いて、更に赤くなって俯いてしまった。どうすればいいのか分からなくて、手を握り返す。
「DVD、見てたのも、緊張を紛らわすためなんだ、ご、ごめん!」
あれが誘い文句だと気付いたのは実に十分後であった。