コーヒーを啜りながら窓の外の星を見る。彼が好きで詳しい星が。隣で同じようにコーヒーをすする彼の目の表面はつるんと滑らかで、慈愛の色を含んでいた。
「おいしいなあ。」
声が少し震えた。ヒロトはちらりとこちらを見て、それから頷いた。ソファーのスプリングがぎしりと悲鳴を上げる。足元に転がるサッカーボールを爪先でちょんと蹴った。
「今何時?」
「8時。」
抑揚のない声が部屋に響く。彼の耳障りのいい声は、今自分を泣かせる要素でしかない。彼はどうやって自分を殺すのだろう。やはり最初に突き付けられピストルだろうか。絞殺かもしれないし、今飲んでいるコーヒーの中に毒が入ってるのかもしれない。
「…ヒロト」
体を90度動かし、彼の冷たい手を強く握る。ヒロトはやはり無感動にこちらを見て、それから少しだけ口元を緩めた。
「なんだい?」
彼は元々体温が低いけれど、今日は一段と冷たい。緊張していると体温が下がる、そう昔だれかに聞いたことがある。
「ずっと、ずっと聞きたいことがあったんだ。」
ヒロトは手元のコーヒーを机に置くと、真剣な顔をしてこちらを見つめてきた。ほかほかとコーヒーから上がる白い湯気が彼の頬に当たり、そして消えていく。
「ヒロトはすごくサッカーが上手だ。それこそ子供に教えれるくらい。」
褒めているととれなくもない言葉を、ヒロトは瞬きもせず耳に入れていた。彼の黒目が猫のように細くなっていく。
「あと、あの孤児院で働いてるって言ったな。あのさ、お前、あそこで育ったんだろ。」
ヒロトの手が微かに震えるのが分かった。あの孤児院は結構長い間やっていて、先生はその孤児院出身者が殆どだと聞いたことがある。ヒロトが小さく頷いた。
「それから、朝飯にシャケおにぎりを出した。あれって俺が好きだって知ってたからだろ?お前は毎日違うメニューを作ってくれたのに一度も俺の嫌いな物をださなくて、好物ばっかだった。俺は結構偏食なのに。」
ヒロトがいよいよ目を潤ませて、俺の手を更に強く握った。何だか今の俺推理小説の探偵みたいだな、と茶化してみても、彼は頷くだけだった。
「それから夕日展望台って言った時、殆ど表情は見えなかったけど、ヒロトは確かに驚いてた。」
すうっと息を吸う。背中をするすると汗が伝っていく。
「なあ、お前」
ヒロトか目を閉じた。薄い瞼が何だか愛おしく見えて、少しだけ微笑んだ。
「何のために俺を殺したいんだ、基山、ヒロト」


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ジェットコースター並の展開で申し訳ないです

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