※数年後


円堂君が結婚する、と風の噂で聞いた。誰に聞いたのかもどういう経緯で聞いたのかももう覚えてない。ただ、彼を好きだと思っていたのに、落胆も号泣もしない自分に少し驚いた。

おめでとうと手紙を送ろうとして、彼の住所をしらないことに気がついた。自分と彼はサッカー仲間ではあったけれどそれ以上でもそれ以下でもなかった。間違いを正してくれた彼は、僕にとって特別な存在だ。けれど彼はどうだろうか。ただ当たり前のことをしただけだと思っているのかもしれない。結婚おめでとう、知らず知らずに書いていた文字は汚くよれていて、見ていられずに破いてしまった。

彼を知るには触れ合う時間が短すぎた。中学を卒業してから殆ど会っていないから、もう自分は彼の記憶の隅にもいないのかもしれない。もしも僕が彼と同じ病院で生まれて、同じ幼稚園に行って、同じ小学校で学んで、同じ中学校に通っていたらどうなっただろう。何億分の一くらいの確率で二人が愛し合うことがあっただろうか。互いを深く知り合って、気持ちを考えて、目を見つめ合ったかもしれない。

そういえば僕、円堂君の誕生日さえ知らないなあ。

おめでとうの言葉も今なら言えるかもしれない、と彼を知らない唇を歪ませた。

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恋にならなかった二人

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