かろんと氷が呟いて、それから円堂が肩をぴくりと揺らした。何やらきょどきょどと落ち着かない彼は、丸い目をぱちぱちしながら私とコーラの入ったコップを交互に見ている。言いたいことをなかなか言い出せない、という表情だ。彼にしては珍しい行動をしているなあとぼんやり思う。互いに黙っているのに、気まずくはない。
「あ、今日忙しかった?」
「いや暇をしていた。」
「そっか。」
よかった、という普段の十分の一くらいの声を聞いて、何だか笑みが漏れた。
円堂にいきなりファミレスに呼び出された。暑い中外に出るのは億劫だが、円堂が用事があるというのなら仕方ない。じりじり太陽が照り付けて暑い中わざわざ行く理由なんて、誰でも察することができるだろう。
「…んー、あのさ」
「何だ?」
「今日は、ちょっと言いたいことがあって…」
口を尖らせてもごもご口を動かす円堂は、なんだか庇護欲をかきたてる顔をしている。5回はおかわりをしていたコップを持ったまま腕は微動だにしない。冷房に冷やされたコップが汗をかいて、円堂の細い指にぽたりと垂れた。
「それは、サッカーに関係がないことか?」
「あ、ああ。」
ぴくっと円堂の目の端が動く。ポーカーフェイスが出来ないのは彼の長所であり短所でもあるなあと一人思う。口元に手を当てたところで、自分が自然に笑っていたことに気が付いた。
「…ん、えと。」
「私も言いたいことがあるんだ。」
言いかけた言葉を遮って呟く。円堂の目は、私と同じ色をしているから、きっと大丈夫だ。大丈夫だろうか、いや大丈夫だろう。すうっと息を吸って、彼の目をじっと見る。その中に映る私は今までないくらい真剣な顔をしていた。
「円堂が、好きだ。」
そう言ってたっぷり三拍子置いたあと、円堂がいきなり注文用のインターフォンを押した。突然のことに驚くが、円堂がこれ以上ないくらい嬉しそうな顔をしているのを視界に捉えて、やって来た店員がチョコレートケーキの注文をとりおわるまで何も言えなかった。
「記念」
円堂がぽんと言葉を転がす。弾みに弾んだ声は、彼が世界大会で優勝したと電話をかけてきた時と同じだ。
「両思い記念!」

何だこいつ、可愛いな。



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