「大丈夫かよ、佐久間。」
「おー」
投げたスポーツ飲料のボトルを、ぱしりと佐久間が受け取る。黄色いベンチに腰掛ける彼は、制服を含めて大変絵になっていた。長い睫毛に覆われた大きな目の下には、大判のガーゼが貼ってある。
「痛い?」
「そんなに。」
佐久間が喧嘩をしたと源田から聞いた。殴り合いとしか言いようのない喧嘩をしたらしい。相手は満身創痍だそうなのに、佐久間には頬と腕にしか傷がない。それが何だか恐ろしく感じた。
「謹慎なるかもな。」
「ねーよ。あっちが悪いんだし、どんなことしたって土下座して謝らせる。」
佐久間の目は口から出る言葉に似つかわしくないくらいキラキラしていて、少女マンガの女の子みたいだ。でも口に出したらそこで終わりだろう。ぼこぼこにされた同級生は、それを口にしてしまったらしいのだから。
「あーむかつく。」
チッと舌打ちが聞こえた。相手を打ちのめすくらいの殴る蹴るを繰り返して、まだ腹の虫がおさまらないとは。呆れと驚きまじりの苦笑を浮かべる。
「…まあまあ。」
佐久間は物事をキッパリと言う。俺はそこが好きなのだけれど、やはり気に入らないという人間はいるもので。「女みてえな顔のくせに生意気言ってんじゃねえよ」という言葉は、佐久間の起爆スイッチを見事に押したそうだ。
「気にすんなよ。」
佐久間がかっこいいのは、俺が一番知ってるから。なんて言えるはずもなく、ごまかすように笑った。


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