「キスしない?」
そう言ってみると、キャプテンは何の感情もない目を細めて、小さく首を縦に振った。
「ありがとう。」
キスする、というよりはキスさせてもらうという表現の方が正しいだろう。彼は僕のことを好きだと言うけれど、キスを待ち望むことなんてしない。手を繋ぐことも望んでないし、セックスなんて以っての外だ。
キャプテンの唇の肉に自分の唇の肉を押さえつける。触れるだけのキスは、互いの粘膜のこする音で一気に艶を持った。
「俺は、キャプテンなんて名前じゃあない。」
低い声で彼が言って、ジャージの袖で口を擦った。そんなことをしても、僕とキャプテンがキスしたという事実に変わりなんかないのに。
「…守。」
指で彼の手をつつとなぞる。キャプテンは少し口元を緩めて「うん」と言った。そういうところが可愛いなんて言ったら、彼はきっと機嫌を悪くしてしまうだろうけど。
そっとキャプテンの首に触ると、彼は眉を潜めた。現代人に多いらしい、性に関して淡泊、嫌悪感を持つ人間。彼は変なところで何かに冷めている。
「…離せ。」
キャプテンがそう睨むので、そっと手を離した。
「キャプテンは、僕のことどんな風に好きなの。」
触らない、手も繋がない、キスもしない、セックスもしない。僕の思う情は体でしか表現できないから、ただ純粋に疑問だ。彼は僕のどこをどう見て好きだと思うのか。
「お前を見て、意外と大きい手とか、細い髪の毛とか、そういうのを見て、特別だなって思う。」
キャプテンはそうと言うと、目元をさっと赤くして、泣きそうに笑った。
今僕らがいる世界は、きっと彼にとっては見るにたえない、そんな場所なんだろうね。



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