起きて直ぐに思ったのは、明日殺されるのだなあということだった。余りにぼんやりした考えに自分で苦笑する。実感が湧かないのだ。いきなりニュースで「明日隕石が追突して死にます」と言われた感覚。おおよそ信じられないけれど、漠然とした恐怖感がある。ヒロトが火曜日以来銃をちらつかせないのもそれを助長させていた。
「朝ごはん出来たよ。」
ヒロトが控えめに笑った。カーテンの隙間から光が差して、それに照らされたヒロトの肌が一層白く反射する。眩しくて目を細めると、またヒロトが笑った。
「ちょっとゴミ出してくるね。」
「あ、俺行くよ。」
「いいって、食べてて。」
ヒロトが、スーツや破れたネクタイの入ったゴミ袋を片手で軽々と持って、颯爽と部屋から出ていった。ぽつんと取り残された部屋に、ニュースキャスターの淡々とした声が広がる。トーストをかじった瞬間はっと意識が冴えた。
「今、俺一人だ。」
ヒロトが来てから一人になるのはこれが初めてだった。彼はちょっとした買い物にも、サッカーにもついてきていた。逃げられると困るからと笑っていた彼が思い浮かぶ。
「逃げ、れる」
今なら隣の部屋に泣きつけるし、警察を呼ぶこともできる。それなのに、部屋から出ようという気にもならない。むしろヒロト早く帰ってこないかなと思えるくらいだ。だって、逃げたって、結局俺は同じことを繰り返そうとして、失敗するだけだ。
ちらりとテレビを見る。新聞にも、ニュースにも、殺人犯逃亡だなんて話題はない。最近稲妻町で話題のニュースなんて、ちょっとした暴力事件くらいだ。
「ただいま」
そうこうしている内に、ヒロトが帰ってきた。特に動揺することもなく笑って迎える。
「待ってたよ。」

やっとこう言えるようになったのに、もうお前は俺を殺すんだな。



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