テストでただ一人100点を取った時だって、サッカーの腕前を褒められた時だって、優秀だと言われた作文を皆の前で発表した時だって、自分のことを初めて「グラン」と呼んだ時だって、こんなに緊張したことはなかった。体中をすごい勢いで血が巡っていく。ごまかすように手首を押さえると、脈がどくどく波打っていた。隣を歩く彼はいつもと変わらずケロッとした顔で歩いている。二人きりの帰りだなんて気にもしていないのだろう。
「もう月が出てるね。」
そりゃ見りゃ分かるだろ、というような直球な言葉しか出てこない。普段、弁論によく動くと言われる舌も今日は休業しているらしい。
「そうだな。今日は半月だ。」
マフラーを巻きながら円堂君がにこりと笑った。所々にぽつぽつとある街灯が彼の肩や足を照らす。
「俺、天体にも興味あるんだ。」
あれ、この話前したっけ。そんなことが頭を過ぎって、何故だか知らないけれど首にぶわっと汗が浮かんだ。おひさま園の皆には「前も聞いた」と言われても新しく話を付け加える機転くらい出来る。けれど、彼の前だと頭の動きが停止して、うろたえてしまうばかりだ。横目で円堂君を盗み見る。薄暗くてよく分からないが、変わらず笑顔のように思えた。
「うん。いいな、俺あんま知らないからさ、今度教えてくれよ。」
弾んだ声が聞こえて、ほっと息を吐いた。彼に飽きられたくない、彼に嫌われたくないという気持ちを苦々しいくらい感じる。円堂君と会って一年も立っていないのに、気付けば彼は俺をすっかり塗り替えていた。
「もちろんだよ。」
と、手がこつんと彼の指に当たった。互いに勢いよく手をあげる。微妙に広がった距離のおかげで、赤い顔はばれないだろう。
「ごっごめん!」
「いや、俺こそ!」
二人で手を振ったり頭を下げたりを繰り返す。さっき円堂君に当たった指がじんじん痛いくらい熱い。そこだけ一皮向けてしまったかのようだ。全身がかちんこちんと動かないのに、指の先っぽだけ別の生き物みたいに感じる。
「ヒ、ヒロトの手、冷たいな。」
円堂君がぽつりと呟いた。俯いた頭からは表情が見えない。
「そ、そう?」
自分の右手で左手を包む。確かに寒風に晒されていた手は、保冷剤の代わりにでもなるなと思った。
「そんなんじゃ霜焼け出来るぞ。」
その声を頭で反芻した瞬間、手に圧迫を感じた。気付くと彼の手と自分の手が繋がれている。
「えっ、」
一瞬心臓が止まって、それから自然と声が出た。そっぽを向いた円堂君のつむじがやけに目に入る。彼の温度は、俺の手だけでなく全身を燃えるように熱くした。
「手が冷たいから、それだけ!」
照れの混じった声で言う彼に、思わず「好きだ。」と一言かけてしまって、更に手が熱くなった。


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爾城夜さん
→こんばんは!七万打ありがとうございます(´∀`)素敵な小説だなんて勿体ないお言葉を…!うれしいです!
手繋ぎというか…ぐだぐだですみません…ヒロ円になっているでしょうか(´・ω・`)書き直しいつでも受け付けます!
リクエストありがとうございました!

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