菓子が好きなんだ、そう言った源田はいつもより柔らかい顔をしていた。俺達がいるのは昭和っぽさを感じさせる寂れた喫茶店。ぼろいレコードから流れる名前も知らないクラシックはところどころ音が飛んでるし、窓のレースカーテンはほつれてる。それでもカウンターに立つ初老のマスターは姿勢良く立っていて、それがまた妙にその場に馴染んでいた。見栄をはって頼んだ苦いコーヒーを啜って源田を見る。彼は壁の茶色のタイルをじっと横目で見ながら微笑んでいた。
「お待たせしました。」
今時珍しいレトロなエプロンを着たお姉さんがそう言って俺の前にケーキを置いた。ちなみに頼んだのは俺ではなくて、源田。お姉さんが立ち去った後に皿をそっと源田の方に寄せた。
「ここのショートケーキがずっと昔から好きでな。」
そう言うと、彼はスプーンをみずみずしい苺に突き立てた。赤い汁がぽたりと白いクリームに垂れる。ふわふわの黄色いスポンジは雑誌で紹介されるようなそれとはまた違う光沢を持っていた。
「うん、うまい。」
源田がそう言って、こちらをちらりと見た。何だか落ち着かなくてまたコーヒーを啜る。
「円堂も一口どうだ?」
「えっ」
一瞬俗にいう「あーん」の図が思い浮かんだが、フォークごと皿をこちらによこす源田を見てその妄想は一気に打ち砕かれた。
「じゃあ、いただきます。」
ケーキの端っこをフォークで切り、そのまま口に入れる。コーヒーに浸された舌には何とも嬉しい甘味が口内を駆けていった。
「おいしい!」
思わず大きな声が出て、はっと口を押さえる。それでも源田はにこにこ笑って「だろう?」と言った。源田はどんどんケーキを平らげていき、俺はコーヒーをちびちびと消費する。今更砂糖やミルクを入れてしまうのは何だか恥ずかしい気がした。自分に素直な源田が羨ましい、と心の奥で息を吐く。
「ご馳走様」
源田はそう言って手を合わせた。ごつごつした傷だらけの手は、俺と同じゴールキーパーの手だ。それをぼんやり眺めながら、ずっと思っていた疑問を吐く。
「なあ、何で俺を連れてきたんだ?」
今日この喫茶店にきたのは源田のすすめだ。彼がどうしてもというから来たのだが、何か話があるかと言えばそういうわけではないらしい。
「何もないさ」
しれりとした調子で源田が言う。席からずるりと落ちそうになった時に、源田が小さく笑った。
「ただ好きな奴と好きなものを共有したかっただけだ。」

もう駄目かもしんないね、俺ら。


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芥川シドさん
→こんにちは!この度はリクエストありがとうございます(´∀`)メルヘンな源円とのことでしたが…メッメルヘンになっているでしょうか…?書き直しはいつでも受け付けますので!ありがとうございました!


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