冷たくびゅうびゅう吹いていた風はどこへ行ったのやら、ぽかぽかと陽気な太陽が窓の外に見える。その暖かさたるや少し運動をしようものなら汗をかいてしまうくらいのものだ。この気温の変化で体調を崩す生徒が多くなるだろうとハデス先生が張り切っている姿が思い浮かぶ。
「それじゃあ皆、気をつけてね。」
日誌をとんとんと机で叩いて才崎先生が言う。「さようなら」の号令の後は、部活に行くもの帰るものと様々だ。ばらばらに席を立つ皆を横目に、横でぐうぐう寝息を立てる彼を見る。眠っているとはいえHRに出るようになったのは一つの進歩だろうか。
「藤君、終わったよ。」
彼の方を軽く叩くと、色素の薄い茶色がぱちりと見えた。美作君も本好君も安田君も部活のため教室を出ていったから、今日は僕と藤君の二人で帰ることになるだろう。
「…あー」
彼はのろのろと緩慢な動きで椅子から立ち上がると、鞄を肩に提げた。そんなどうでもいい動作にも黄色い悲鳴が上がる藤君は同じ男として何だか妬ましい。
「今日はどこか寄り道する?」
「ん…ハゲが今日は真っ直ぐ帰れつったから帰るわ。」
「そっか」
一緒に帰っていい?と言わなくなったのはいつからだろうか。自分と彼は思ったより親密なのだろうかと一人考えていると、藤君が不思議そうに顔を覗き込んできた。
「何で笑ってんの?」
「えっ、笑ってた?」
疑問符に疑問符で返すのも日本語として正しくないが、全く意識していなかったことなので驚いたのだ。藤君が小さく笑う。
「すげえうれしそうだった。」
その言葉を聞いて、耳の裏が痛いくらい熱くなった気がした。
「そ、そう」
じんじんと熱を孕んで混乱した頭のまま藤君の言葉に返事をする。と、門の横の木が目に入った。
「…わあ、もう咲いてる。」
そう呟くと、藤君も目線を移動して、小さく「おお」と呟いた。髪の毛が風に合わせて揺れて、思いの外幼い横顔がはっきり見える。
「綺麗だよね、桜。うちはいつもお花見に行くんだ。」
ぽつりと言うと、藤君は一瞬考え込むような表情をして、それからこちらをじっと見た。
「…うちの庭にも桜咲くから、今度見に来いよ。」
一年前はほぼ他人と言ってよかった距離の彼からの言葉に、ただ純粋に驚いた。あんなに家に人を呼ぶのが嫌そうだった彼が自分を招くだなんて。心臓が掴まれたように苦しくなって、しかし頬は上気していった。
「…うれしい。」
一年後に自分はこうやって彼の隣を歩いていないだろう。互いに目指すものも違えば、境遇も違う。そう思うからこそ今隣で歩けることが堪らなく幸せに感じる。
「…おう。」
ぶっきらぼうに言う藤君の笑顔には有効期限がある。暖かい陽射しに背中を押されながら、一人で思いっきり泣きたくなった。


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もちさん
→こんにちは〜!七万打ありがとうございます!藤アシリクエストですが…土下座の準備は万端ですのでいつでもどうぞV(^0^)私もいつかもちさんの藤アシが見たいな…なんてね!ゲヘヘ!リクエストありがとうございました!


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