地球は後何万年か何億年か知らないが、とりあえず滅びてしまうらしい。5時間目も残り3分という微妙な時間で暇つぶしのように出された話題。しかし、皆意外と食いついて、もう死んでるからいいやー、と楽観的に笑う奴が大勢いた。俺は、ぴくりとも笑えなかったが。

「何かその話題思い出した」
空にこれでもかというほど散りばめられた星を見ながら言うと、隣に座るフィディオが薄い笑みを顔に浮かべた。
「マモルがそんな話をするなんて、意外だなあ。」
「それは俺がサッカー馬鹿ってことを言いたいのか?」
そう言って彼をじろりと睨むが、フィディオは気にしない様子で微笑んだ。その柔らかい表情は子供を見守る親のような、庇護欲の溢れる顔だ。
「…何だろう、嫌だね。」
フィディオが小さく呟く。意味がよく分からなくて、それでも何故か聞く気にはなれなかったから、じっと黙っていた。
「俺達がいたことも、俺がマモルを好きって言ったことも、マモルが俺を好きって言ったことも、皆でサッカーをしたことも、美味しかった食事も、家族と行った旅行も、楽しい思い出とか全部全部、地球と一緒に死んじゃうんだろうね。」
フィディオの丸い目には、薄い涙の膜ができていた。彼から目を逸らし、眩しいくらいの夜空を眺める。彼は気付いている。俺達がどんなに好きだとか愛してるを繰り返したところで、俺達はどこにも進めないということを。
「…地球が爆発して死ぬとしたら、全部宇宙にでも行くんじゃないのか。」
何だか泣きそうになったから、それをごまかすために無愛想に早口で言うと、フィディオの笑い声が聞こえた。
「いいね、宇宙旅行ならすごくロマンチックだ。」
フィディオの手が俺の頬に乗った。目が合って、それから二人で笑う。
「キスしていい?」
「いいよ。」
どうせここで二人キスをしたことも、いつかは地球と共に消えてしまうのだ。だれが嫌悪しようがどう思おうが俺が幸福になろうが、いつかは宇宙を旅するだけの感情。
「マモル、俺は幸せだよ。」
地球が死ぬ前に、当たり前だけどフィディオは死んでしまう。勿論、俺も。
「なあ、最期に一瞬でもいいから、俺のこと思い出してくれ。」
俺にとってそのことは地球が滅びることよりよっぽど重要なのだ。カクンと一瞬頷いたフィディオを見て、もう何も言えなかった。


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