もし俺が円堂守として生まれなかったら、鬼道のことをこんな風に思うことはなかっただろう。でも、今泣きたいほど辛いのに、やっぱり円堂守として生まれてきてよかった、と思えた。会えたことがうれしいなんて陳腐な表現だと思うけど、鬼道が隣で走ってた過去は多分、鬼道に会えなかった過去よりきらきら光ってる、そう確信できた。
「鬼道の返事は分かってるよ。でも、一言言わせてくれ。」
優しい鬼道はいつもさりげなく遠慮して、それから考え込んでしまう。それをさせたくないからそう言った。このことを言って彼と添い遂げることが目的でなく、ただ伝えたいだけだから。
「ああ」
暫くしてから、鬼道がぽつりと言った。ゴーグルの向こうの目は見えないけれど何となく分かる。鬼道は泣いていた。
「ずっと好きだった。」
ノーマルでない自分に悩んで何度も泣いてしまったけれど、それでも彼が好きでよかった。何かしてやりたいと思える奴に会えたことは、きっと俺のこれからの人生をもっと楽しいものにするだろう。
「…恐らく、これから、俺のことをそんな風に思ってくれる奴はいない。」
鬼道は珍しく俯いていた。返事の一つ一つが心臓に優しく染み込んでいく。満たされた気分が体に広がっていった。
「…お前に答えられないのが悔しいし、情けないな。」
自嘲の笑みを浮かべた鬼道を見て、俺も笑った。鬼道は本当にそう思ってくれているのだろう。それがたまらなく、いっそ困るくらい嬉しい。
「ありがとう」
鬼道が言った。俺は今失恋をしたけれど、本当に幸せな気分だ。
「こっちこそありがとうな。」
鬼道が俺を、シュートを決めた選手にやるように抱きしめた。涙は出ない。ありがとうの気持ちは、もう口に出せないくらい頭の中に広がっていって、それはやはり幸福なものだった。


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円堂が友達的な意味で大好きな鬼道さんと鬼道さんが大好きな円堂さん


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