昨日の雨が嘘のように晴れて、空には白い雲がのんびり浮いている。ヒロトはおにぎりを皿に盛りながら鼻歌を歌っていた。具は多分、俺が昔から一番好きなシャケ。泣いたせいで腫れてしまった目を擦って布団からもぞもぞと起き上がる。ヒロトはこちらを見ると、柔らかく口を緩めて笑った。
「おはよう。今日はどうやら練習出来そうだよ。」
それに大きく頷いて、洗面所へのろのろ歩を進める。ふと視界にしわ一つないスーツが目に入った。ヒロトに出会ったその日に着ていたスーツだ。しかし、ネクタイがどこにも見当たらない。
「洗濯しといたよ。ネクタイは…シワが酷かったから、捨てちゃった。」
悪びれもなく、ヒロトがきっぱりと言った。別にネクタイ自体はただの安物で思い入れもなかったから良いのだけれど。強張った頬をそのままに、ヒロトの目を見る。彼は目を大きく開いたまま、口だけで笑って「間違ったことをしたとは思ってないよ」とやけにはっきりした声で言った。

サッカーの練習が終わったのは、6時を過ぎた頃だった。ヒロト先生は今日も大人気で、本人は照れ臭そうにしていたが満更でもないようだ。今日も夕日展望台を通って帰り、家まであと3分もない時だった。ヒロトが立ち止まって、ある家を指した。
「あそこ、働いてた孤児院なんだ。」
教会のような可愛らしい建物だ。そこをヒロトはじっと、慈しむように見ている。突然のことに何と返事すればいいか分からず黙っていると、ヒロトはこちらを見ずに続けた。
「…実はね、円堂君のアパートの前もたまに通ったりしてたんだよ。皆と買い物をした帰りとか。」
そう言ってヒロトは俺の目をじっと見て、にっこり微笑んだ。
「かえろっか」
ヒロトが不意に手を繋いできた。恥ずかしさもあったが、何となく離してはいけない気がして、強く握り返した。
「孤児院の子たちと、よくこんな風に帰ったなあ。」
ヒロトがぽつりと呟いた。アパートに近付いて、俺の部屋の透明な窓が見える。繋いだ手に、冷たい風がぴゅうっと吹き抜けていった。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -