帰国の飛行機が到着するまで一時間、という時に、ユニコーンのメンバーが見送りをしに空港へ来た。マークは真っ先に俺のところへ来ると、少し話をしないか、と言った。正直嫌だった。この数週間という短い時間で築いた関係のままでいたかったから。恋人ともいかない、友達というには曖昧すぎる関係のままで帰国してしまいたかったのだ。数年後には「あんなこともあったなあ」と微笑んで思い出せるように留めていたかった。それでも足は、マークの後を着いていった。

「お前は俺のことをどう思ってた?」
皆から少し離れた場所で、ガラスの向こうを飛んでいく飛行機を二人で見ていた。空は青く輝いて、雲は数えるほどしかない。
「…好きだと思ってる」
彼の過去形の問いに現在進行形で返したのは、最後の悪あがきのようなものだ。マークは金色の髪によく似合う笑みを浮かべると、二度頷いた。
「ひどいことを言うな。」
きっとマークは俺と同じ気持ちなのだろう。ただの友人に戻らなければならないのだろうけれど、大人しく従いたくない。ノーマルを憎んでも、結局はノーマルに回帰するのだ。その二つの気持ちがもやもやと渦巻いてすっきりしない。
「…なあ、エンドーは、こっちのチームに来る気はないか。」
不意にマークが言った。懇願と諦めの色が混じった緑色の目が、こちらをじっと見つめている。
「…ごめんな。」
そう呟いた途端目尻に涙が溜まった。喉を通って込み上げてくるものを、このまま吐き出してしまいたくなる。
「ごめん」
頭に浮かぶのは、イナズマジャパンの皆の顔だ。キャプテンとしても、一人のメンバーとしても、自分はあのチームを愛している。そのチームを抜けるだなんて到底無理な話だった。そのことをマークも分かっている。
「振ってるのは、お前だろ。何でそんな顔するんだよ。」
そう言うマークこそ困った風な顔をしていた。出発な時間はもう近くまで迫っている。それでも、この話を切り上げようとは思えなかった。
「握手、してくれないか。」
手を出すと、マークは瞬きを数回して、それから首を振った。
「今お前の手を握ったら、離せる自信がない。」
そう言ってマークは笑った。監督が俺を呼ぶ声がして、マークを一瞬見つめた後、その場を数歩離れた。
「エンドー」
後ろから覆いかぶさるように声が聞こえる。振り向かずに、足を止める。
「泣くなよ。」
その言葉が響いて、風に掻っ攫われて聞こえなくなるまで足は止まったままだった。振り向かないし、彼を見たくない。
「マークもな」
そう言って、イナズマジャパンの皆の元に走る。自分の声が掠れていたことに、彼は気付いていただろうか。そうだとして、これからどうなることもないが。


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