※ちょっとホラー
※何でも許せる方向け


「結婚指輪を薬指にはめる理由、知ってるか?」
夜、ベッドに寝転んでいた時、円堂がいきなり部屋にやって来てそう言った。赤いTシャツにジーンズというラフな格好で、トレードマークともいえるバンダナを外している。
「知らねえよ。」
そう言うと、円堂は勝手にベッドに腰掛けた。彼の重みでスプリングがギシギシと揺れる。焦げ茶色の髪の毛が、揺れに合わせてふらりと泳ぐ。
「薬指の血管って、心臓に繋がってるんだってさ。」
聞いてもいないのに、円堂は自分の左手を見ながらそう話しはじめた。いつもより掠れたような声が耳をすらすら通っていく。
「ギリシャの言い伝えでな。愛の血管は心臓からまっすぐ伸びて、左手薬指へ繋がっているって説なんだって。」
彼が何故そんなことを言うのか分からない。はっと気付くと、円堂の左手にはハサミが握られていた。
「つなぎ止めておくために指輪をするって意味らしいな。…なあ、不動。」
いつもと変わりのない、澄んだ目の彼が笑った。
「俺とお前は何があっても結婚なんかできない。一生の愛とか恋とかそんなことあるはずがない。だから、今の内にお前の愛をくれよ。」
左手にきらりと光るハサミは、鈍い銀色をしている。背中をとろりと汗が流れていった。
「どういう意味だ。」
起き上がって、彼を睨みつける。それでも円堂は笑みを崩さなかった。
「お前が他の誰かを好きになる前に、薬指をくれ。そうしたらお前と俺は一生お互いをつなぎ止めておけるから。大丈夫、俺のもあげるよ。」
円堂の手が俺の左腕を無遠慮につかみ、それから薬指に刃を当てた。

「…つうっ…!」
目を開けると、白い天井が視界に入った。ベッドから飛び起き、左手の薬指を確認する。変わりのないそれに安堵の溜め息が出た。どうやら先程のことは、うたた寝が見せた夢だったようだ。またベッドに転がると、シーツが汗によって濡れていることに気付いて苦笑した。
「おーい、不動」
ノックの音がした後、先程まで夢で聞いていた声が聞こえて、心臓が飛び跳ねた。夢の声はやけに冷静で抑揚がなかったが、今の声は明るい。それでも妙な違和感は拭えなかった。
「入るぞ」
そう言って部屋に入ってきた円堂を見て、一瞬息が止まった。赤いTシャツにジーンズ、そしてバンダナをしていない髪。彼は左手を後ろに回していた。ドアを閉めて鍵までかけた円堂が、こちらを見てにやっと笑う。
「結婚指輪を薬指にはめる理由、知ってるか?」
銀色が光った気がした。




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