※世界戦終了後
空港に着いたのは、もう日がとっくに沈んだころだった。長いフライトだったというのに誰も疲れた様子を見せないのは流石というべきだろうか。そんな中、自分一人だけが泣いていた。
「泣くなよ、立向居」
「ずびばぜえええん…!」
謝罪の言葉を口にしようとしても、上手く舌が回らない。そんな自分を見て困ったように笑う円堂さんはいつも通りだ。
「そんなに別れを惜しんで貰えるなんてよかったじゃないか。」
風丸さんが円堂さんに悪戯っぽく言う。不動さんは一歩下がった場所で呆れたように溜め息をついていた。
「そうだな、うれしいよ。」
円堂さんが歯を見せて笑った。画面越しに見ていた彼の笑みは、今目の前にある。それなのに触れることも出来ないだなんて自分はとことん意気地なしだ。
「俺っ、だのしがった、ですっ」
そう言って、揺れる目の前の世界を見る。来年になれば、また会えるかもしれない。でもそれはあくまで仮定の話であり、来年どうなっているか分からない。代表に選ばれなかったり、もしかしたらサッカーをしていなかったり。だから今離れるのが口惜しい。またテレビで彼を見ていた時の距離になってしまうのが、寂しくて仕方ない。
「俺も楽しかったよ。」
いつの間にか円堂さんの背中を追いかけていた。彼よりも才能があるかもしれない、そう言われても、彼を越えれる気がしなかった。自分にとって彼はいつまでも憧れの人だ。高校生になっても大学生になっても社会人になっても結婚しても子供ができても、死ぬまで、自分は彼の背中を思い続けるだろう。
「立向居、またな!」
円堂さんがすっと手を出した。出会ったあの時のように、彼の手を両手で固く握る。違うのは自分の表情だけだ。あの時は笑っていたけれど、今は頬をつるつる涙が伝っていく。鼻をすすって、ちゃんと声が出るように、咳ばらいを一つした。
「さ、ようなら、円堂さん。」
出来ればまたお会いしたいです、そう心の中で思ってゆっくり手を離した。