これの続き

「おわったー…」
結局仕事が終わったのは9時をたっぷり過ぎた10時だった。今からどんなに急いで帰っても、家に着いた頃にはサッカー中継は終わってしまっているだろう。楽しみにしてたのに。
「もう10時かよ。」
南雲課長が腕時計を見ながら呟いた。お前がとろいから、という厭味がたっぷり紛れ込んでいる。
「お疲れ様です!」
そう強く言って席から立ち上がる。更衣室へ移動しようとドアを開けた時、どきりとした。いつも帰る時間は5時過ぎだから明るい廊下しか見ていないが、消灯された廊下は真っ暗で何かが出て来そうだ。ぽっかり緑に浮かぶ非常灯がまた恐ろしい。しかし、そんなことで立ち止まっていてはまた課長に馬鹿にされてしまう。綺麗に掃除されたタイルに足を伸ばした瞬間だった。

ピンポーン
「ぎゃああああ!!!」

不意に響いた音に、情けのない声が口から出る。思わず近くにいたものに抱き着いた。ぜーはーぜーはと呼吸を整えて、頭が冷静になってくる。よく考えたら今のはエレベーターの音だ。一気に力が抜けていく。
「…おい。」
頭上から声が聞こえた。ふと自分が抱き着いているものに目をやる。赤いネクタイに、黒いスーツ。嫌な予感満々の中意を決して顔を上げると、南雲課長の腹が立つくらい整った顔がすぐそこにあった。
「ぎょわああああ!!」
「うるせー!」
先程とは違う悲鳴をあげると、南雲課長は眉をひそめて耳を塞いだ。赤い髪からのぞく耳は、なぜだか髪に負けないくらい赤い。
「何びびってんだ、ガキか。」
南雲課長の体からぱっと手を退ける。厭味も今では何だか申し訳なく感じてしまう。すみませんね嫌いな奴が抱き着いちまって。でも俺は、今彼に頼まなければならないことがある。
「…あの、課長」
ごめんなさい南雲課長狙いの皆さん、そういうアレじゃないんです。今日だけ許してください。怖いだけです。
「更衣室に一緒に来てもらえませんか」

このあと真っ赤になった南雲課長から二発喰らった可哀相な俺。


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