※パラレル
最近、気になる視線がある。それは委員会で本の貸出を担当している図書室でのこと。窓側の陽射しがよく当たるカウンターで貸出カードを見ていると、不躾なくらいのじろじろとした視線を感じるのだ。犯人は分かっている、隣の隣のクラスの子。名前は知らないけど活発そうな男の子だ。彼は休憩時間グラウンドで駆け回って笑っている。失礼だが、そんな子と図書室は何となく結び付かなかった。
(…あ)
そういえば彼は、廃部寸前のサッカー部部長で、部員を募集していると聞いた。自分は昔からおひさま園でサッカーをしていて、体育の時間褒められるくらいは上手だから、勧誘にでも来ているのだろう。彼は本を読むふりをしながらチラチラこちらを見ている。ふとそっちを見ると、すごい勢いで目を逸らされた。少し面白い。
人が殆どいなくなった午後6時、彼は机に突っ伏して眠っていた。帰宅を促すアナウンスが鳴っても目覚める様子はない。彼の肩をとんと叩くと、彼は体を揺すって、ゆっくりと頭を起こした。暫くボケッと俺の顔を見て、ぼっと顔を赤くした。
「き、き、き、基山!」
彼は図書室だというのに、大きな声を上げた。幸い人もいないため窘めなくても良い。彼はうっすら暗くなった窓の外を見て、溜め息をついた。
「よく名前知ってるね。」
「や、その。」
彼がもごもごと口ごもる。サッカーをしている時の様な溌剌した雰囲気は見当たらない。
「基山は有名だよ、かっこいいし、頭いいし、優しいって聞くし、真面目で、サッカーが上手いらしくて。」
彼はそこまで一息で言うと、顔を一層赤くして手をばたばた振った。彼にそう言われると誇らしい気分がする。
「で…俺、その。」
彼は真剣な様子でこちらをじっと見た。丸い目の中にきょとんとした顔の俺が映っている。
「基山のこと…す…すげー尊敬してる!友達になってくれないか!」
彼が手を握ってくる。声は明るいのに、表情は少し暗い。俺の意気地無し、と本当に聞こえるか聞こえないかくらいの声がした。よく分からないな。
「もちろん。君の名前は?」
彼の手を握ると、彼の顔が一気に華やいだ。それからとびっきりの笑顔が浮かぶ。
「円堂守!」
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円堂さん片思い祭