「俺は、忌み嫌われた奴なんだ」
ばっと次郎が俺の上に覆いかぶさってきた。目からは涙がぽつぽつ溢れて、寒さに冷たくなった頬へ落ちてくる。次郎と俺の鼻がぶつかるくらい顔が近い。
「次郎、落ち着け。どういうことだ?」
「俺が嫌いなんだ、父様も母様も兄様も、みんな」
俺の目に次郎の涙が落ちてきた。何だか温かいそれは、彼の体温だ。目をぱしぱしとすると、涙が横へ零れていった。
「次郎、そんなこと、俺はお前が好きだよ、次郎。」
次郎の涙のせいでぼやけた視界には、眉をひそめた次郎が見える。白く艶めく髪が夜空に映えていた。
「嘘だ」
「本当だよ、起きて」
しゃくりあげる次郎の体を起こそうと思ったが、意外と強い力を退かすことは出来なかった。
「次郎俺な、お前のこと知ってた…というか気付いてたんだ。」
次郎のつり目がきゅっと開いた。赤色と茶色の目が俺を捕らえたまま離さない。
「町で色々噂になってたからな。佐久間様の息子だろ?」
草の香りが鼻をくすぐる。まだ落ちてくる次郎の涙が草に付いて、露のように見えた。
「…ああ。」
観念したように次郎が呟いて、俺の上からどいた。上等ものであろう着物には葉っぱや花びら、ひっつき草がついている。空気が澄んでいるからか、空には、星が沢山瞬いていた。次郎の吐く息は白く、月に照らされてきらきら輝く。
「次郎、俺とじいちゃんの話聞いてたもんな。」
そう言って笑うと、次郎も困ったように笑った。
「守、俺の話を聞いてくれるか。」
体を起こし、そう言った次郎に向き直る。彼の異質な目は、神経の一つ一つまでビー玉みたいに綺麗だ。
「…もちろん」
「もう一つお願いがあるんだ。」
次郎が俺の手を掴んだ。彼の手はかちわった氷みたいに冷たい。かさかさになった唇を舌で舐めて、小さく頷く。次郎が口を開いた。
「俺を連れて逃げてくれ。」

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何か…すみません…



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