アメリカへ行った彼の席は、若い教師によってあっという間に片付けられた。余りの余韻のなさに出たのは悲しみを含んだ溜め息だ。一之瀬のことを「かっこいい」と騒いだ女子も、残念がりながらも既に普通の生活に戻っている。一之瀬と楽しげに騒いでいた男子だって同様だ。冷たいんじゃなくて、きっと普通の反応。それでも俺だけおいて行かれた疎外感があった。時間から離れたポツンとした場所に一人で佇んでいる。
「寂しいね」
秋が悲しそうに笑った。俺は秋のようにあいつと幼なじみだったわけじゃない。秋のように長い付き合いがあったわけじゃない。それでも、俺は秋より一之瀬に依存していたようだ。アメリカのチームに入ったことも、足のことを言わなかったのも、怒っているわけではない。自分は彼のことが好きだったから。
「サッカー、また出来るよな。」
「出来るよ。」
一之瀬の席があった場所を見て、小さく呟く。教師が出席簿にマーカーを引いているのを見て、一之瀬の欄が消されたということが想像できた。こんな風に皆順応していって、アメリカの学校では一之瀬の新しい席が出来て、出席簿にも新しい一之瀬の欄が出来て、新しい場所が出来て。それから俺がいたような場所がまた埋められていく。次また会ったとして、俺は彼の中でどんな位置になっているのだろう。土門や秋や西垣みたいに幼なじみでもないし、特別な間柄でもない。
「おいてかれたよ。」
そう言った時、チャイムが鳴った。席について教科書を広げる。視界の隅にごちゃごちゃした黒いものが見えた。前に一之瀬が描いた落書きだ。それを見て、消したくないなと泣きそうになった。

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片思いなイメージがあります



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