昨日今日と続いてヒロトはサッカー教室について来た。小さい子供に交ってサッカーをしているヒロトはとても楽しそうで、子供達もヒロトのことを「ヒロト先生!」と慕っていた。サッカーの好きな友人、そんな名目で連れて来た彼はあっという間に人気者になっていた。俺はそんな彼を見て流石孤児院の先生だけあるなあと一人ごちた。

「今日も楽しかったなあ…」
ビニールの買物袋を手から提げて、ヒロトはにこにこと言った。その顔はサッカーを終えた後の子供達に似ている。親と手を繋いで、しゃべりながら笑いながら夕焼けに紛れていくあの顔、しあわせの顔。何だか嬉しくなって、自分も笑う。
「そうだな、なあ今日の夕飯何?」
ヒロトはこちらを見てくすっと笑った。沈んでいく太陽を頬に浴びる彼は、とても優しい表情をしている。線のように細い髪が風に吹かれて、彼の頬にぺったり張り付いているのが見えた。
「今日は牛丼だよ。」
頭の中にイメージが浮かぶ。丼の中、ほかほかの白米の上にたれとしっかり絡められた肉、玉葱、人参、それから上にこんもりのった青い葱、たっぷりかかったツユ。思わず涎が出てきそうだ。
「いいな、早く食べたいー!」
あと数日すれば相手は自分を殺す。そんな奴なのに、俺を殺す奴なのに、彼はとても愛おしそうに、慈しむようにこちらを見ていた。もしかしたら、見間違いだろうか。ふと、彼が周りを見渡した。
「この場所、いいよね。俺ここが大好きなんだ。よく孤児院の子を連れて来たよ。」
少し高台の、雷門町が見渡せる場所。特に名称はないが、小さい頃は『夕日展望台』と誰かが呼んでいた。夕日が見えるから、そんな単純な理由だったけれど皆がそのあだ名を使っていた。懐かしく思って小さく呟く。
「夕日展望台、か。」
不意にヒロトがこちらからぱっと目を逸らした。彼の目線の先には、殆ど見えなくなってしまった夕日が光っている。彼の赤い髪がふわりと靡いた。目の前がちかちかして、足元がふわりと軽くなる。
「…そうだね。」
消え入りそうな小さな声だった。


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