ずるずると引きずられるようなものだ。余りに緩やかにはまっていくものだから気付きもしなかった。温かな液体が零れて、いつの間にか浸透して、コンクリートの様に固まっていく。彼の言葉にはそんな強みがあった。彼が「うれしい」と言えば嬉しく思え、「悲しい」と言えば悲しく思える。自分は、紛れも無く彼が好きだった。

「死ぬってのは最後じゃないんだ」
俺の髪の毛をハサミで切りながら円堂が言う。彼が褒めてくれたから伸ばしたこの髪を、今は彼が切っている。青い毛束が落ちていく度に泣きそうになって仕方ない。
「本当に落ち込んで何もかも嫌になって、そうしたら俺のところに来て。」
円堂が俺の目を見る。丸くて表面がきらきら光ったその目は、やっぱり好きだと思えた。
「…髪の毛さ、風丸大切にしてただろ。それ俺が預かっとく。風丸が辛くなったら、一緒に燃やそう。」
円堂が小さく笑った。彼の辛い時の癖、目を伏せて口角を上げる笑いだ。
「…円堂にとっての最後ってなんだ」
顔を上げると、自らの茶色い毛を切っている円堂が見えた。茶色の束が地面に落ちて、俺の青と混ざる。
「辛いと思えなくなった時」
また円堂が笑った。円堂を引き寄せて、ありったけの力で抱きしめる。円堂は痛いとも言わなかったが、うれしいとも言わない。結局この関係は、自分も彼も誰も救えないのだ。


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