次の日朝目を開けると、いつも通りの天井が広がっていた。殆ど寝ていないためか頭がずきずきと痛む。ちらりと隣を見ると、きちんと畳まれた布団があった。
「おはよう。食事出来てるよ。」
ヒロトと呼べ、昨晩そう言った男がひょっこりと顔を出した。どこから引っ張り出したのかエプロンまで着ている。
「そんな警戒しないで。毒なんて入れてないからさ、この一週間は楽しく暮らそうよ」
ヒロトが弱々しく笑った。ちゃぶ台の上では、トーストや目玉焼きが湯気を立てている。それは彼の乾燥した笑みと対称的に見えた。
「いただきます」
バターを塗りたくったトーストをかじる。普段朝食を食べないためか、ただのパンなのに美味しく感じた。
「円堂君が寝てる間色々物色させてもらったけど、この家ごちゃごちゃしてるね。」
「余計なお世話だ。」
くすくすとヒロトが笑う。こうして見ると、昨日の彼が嘘みたいだった。
「…円堂君、仕事は?」
「ああ、今長期休暇中。今は一応近所のサッカーチームのコーチもやってるけどな。」
「ふうん…そっか。ああ後この一週間外出するときは俺と一緒に行こうね。」
脅す意図はなかったのだろうが、彼の背の後ろに黒く光る銃が見えて、ごくりと唾を飲んだ。警察にでも行かれたら困るとでも考えているのだろう。緊張感が一気に増して、足がぴんと張って動かなくなった。
「…お前は、何してんだ?」
恐る恐る尋ねると、ヒロトは目だけで笑った。彼の赤い髪がさらりと跳ねる。
「孤児院の先生」
ニッと笑う彼は、やはり人殺しのようには見えなかった。そういえばここら辺に孤児院はいくつかあった気がする。
「帰らなくていいのか。」
「帰れないんだってば。」
ヒロトがコーヒーを啜る。こいつは昨日、一体何があって何をしてしまったのだろう。そう聞こうと思ったが、口をつぐんだ。下手をしたら殺されてしまう気がする。
「今日、サッカーチームの練習が夕方からあるんだけど。」
「あ、分かった。一緒に行く。」
サッカーが出来るのも後たった5日か。



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