原因はいくつでもあったはずだ。疲れて帰ってきて鍵を閉め忘れたことだとか、不審者に注意のビラを自分には関係ないと丸めて捨ててしまったことだとか、換気をしようと窓を開けっ放しにしていたこととか。言ってしまえば「狙って下さい!」と主張していたようなものだ。足元に落ちたスーツに額から伝う汗がぽたりと垂れる。その部分はいっそう黒く染みて、安物っぽさが更に浮き出た。
「ばん」
目の前のピストルを持った青年は、俺の額にそれを突き付けて一言そう呟いた。ワンルームマンションの一室、一人暮らしのはずの俺の部屋に見ず知らずの他人がいる。それだけでも叫びだしたい位恐ろしいのだが、更に彼は銃を持っていた。白い肌に浮かぶ赤い目は殺意も恨みも憎しみも抱いていなくて、ただこちらをじっと見つめているだけだ。
「声を出したら、撃つからね。」
淡々というその調子がまた恐ろしい。大きく頷いてさっと両手をあげる。彼は銃をそのままにこちらから目を反らして、俺の部屋をじろりと見回した。片付けのなっていないごちゃごちゃした部屋だ。それでも、青年は満足げに微笑んで俺を見つめる。
「二択で選んで」
微笑みを崩さず青年が続ける。銃を持っていない方の手がひらひらと二本の指を立てている。
「1、今ここで死ぬ。」
「は、」
額に銃がごりりと押し付けられた。途端に首からぞわりと鳥肌が立つ。
「2、一週間ここに俺を匿ってそれから死ぬ。」
額から少しだけ銃が離れる。彼がきっと唇を固く結んだ。ごくり、と口の中に溜まった唾を飲み込む。
「え、は、」
「10秒以内に答えて。質問でもあるのかい?」
「あ、あ、ある。」
「言ってみてよ」
「何で、俺のところに」
やっとのことで声を絞り出す。青年は少し面倒臭そうに髪をかきあげると、溜め息をついた。
「俺は、人を殺した。警察に捕まりそうになった時偶然この鍵の開いた不用心な家を見つけたから入り込んだ。それだけ。はい、カウント開始。10、9」
「ちょっ、待てよ、人を殺したってどういう」
何でもない風に言った彼の言葉に噛み付くが、彼は無視して銃を突き付けている。
「聞けよ、答えろよ」
「8、7、6、」
彼はこちらの言葉に気にする様子もなくカウントを続けた。引き金にしっかりと指が絡まっているのを見て、涙が出そうになる。
「5、4、」
何も言わなくても時間は進んでいく。拳をぐっと握って、深呼吸をした。何も聞けずに死ねるものか。
「3、2」
「分か、った、一週間、匿ってやる。」
途切れ途切れになりながらもそう告げると、彼はにっと笑った。それから銃がすっと下ろされる。鼓動の速さが少しおさまってきて、ホッと息を吐いた。
「俺のことは、ヒロトって呼んでね。円堂君。」


(死刑宣告、月曜日)



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