人には言えない趣味がある。いや趣味、というよりは癖だろうか。写真でも絵でも、人の顔を塗り潰してしまうのだ。落書きではなくマジックで塗り潰す。真っ黒になった顔を見て、ホッと息をつくのだ。この現象の意味は分からない。ただ塗り潰した瞬間の快感、安心感、あの興奮、それが堪らなく気持ちがいい。という訳で俺の教科書の人物画は殆ど真っ黒だ。一度クラスメイトに貸した時に怪訝な顔をされたが、別にどう思われようがよかった。むしろそいつの顔も塗り潰してやろうかと思った位だ。
「一回頭の病院行けよ」
何度かエスカバが眉をひそめて言ったことがある。病院だなんて、別にどこが可笑しい訳でもないし。そう笑って彼の肩を軽く叩いた。この行為の意味に気がついているから、そう言えた。エスカバの顔は既にマジックで塗り潰されていて見えない。いつの間にか、自分以外は真っ黒い顔をしていた。

「俺の顔が一番好き。他の奴は嫌い。」
「どうして?」
「負けたくない、何にでも負けたくない。俺が一番好き、他には負けない。他の奴の顔なんか見たくない。嫌いだ、大嫌いだ。」
気付くと、目の前には顔を塗り潰された円堂守が立っていた。何でこんなところに、そう言いたかったが何故か声が出ない。服装は80年前のままで、足元にはサッカーボールが転がっている。
「ミストレは負けず嫌いなんだな」
からからと笑う声は聞こえるが、目の前の円堂守の顔は黒いままだ。
「お前は自分が好きで、自分を嫌いなのよりは断然いいよ。それでも後一歩自信持ててない、そうなんだろ。」
「うるさいな」
「バダップに負けて、悔しくて、もう他では負けたくないって、そういうことだろ。」
「うるさいって!」
ばっと彼を見た瞬間、焦げ茶色の目と目が合った。いつの間にか黒いマジックが消えている。円堂守がにこりと笑った。
「俺は、お前が何より一番好きだよ。」

目を開けると、机に突っ伏していた。体を慌てて起こすと、広い図書室には自分を含めて数人しかいなかった。自習中に居眠りしてしまったのかと溜め息をつく。ふと、近くの席で黙々本を読んでいるバダップを見た。黒の見えない視界に、苦笑が漏れた。

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陽太さんに捧げるミス円です!^∞^駄文すみません
オーガ円強化期間…です…


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