※80年後円堂さん死亡済み
※色々平気な方向け

「結構大きいでしょ」
目の前の立派な墓石を見て、円堂カノンが押し殺す様に笑った。墓石には、円堂守、と深く濃く刻まれている。その窪みには埃一つなく綺麗に清掃されていた。さんさんとした太陽の下、汗が服の下を伝っていく。
「いつ頃」
そう呟くと、自分の声が震えていることに気が付いた。円堂カノンは指を折って数える様な動きをした。
「ちょうど、二年前に」
三回忌がもう少しであるよ。円堂カノンがこちらを真っ直ぐ見た。泣いてはいないが、笑ってもいない。大きな木が風に吹かれてざわざわ揺れている。彼の墓はちょうどその影にあった。
「92歳の大往生だって。ひいじいちゃんも、皆も、笑って最期を迎えれたよ。」
死んだからってそんなに悲観しないで。彼の言葉は柔らかかったが、その度に心臓が痛くなった。
「そんな予感はしていた」
まだ震えている声で呟く。ヒビキ提督が何故わざわざ80年前に俺達を行かせたのか、なぜ今の円堂守の話題には触れもしなかったのか。それは、今現在に円堂守がいないからだ。
「君、勘良さそうだしね。」
円堂カノンが笑った。墓に供えられた花を見る。白とピンクを基調とした花束は、彼に合わないなと苦笑した。
「お前は、このことを知って、円堂守に会いに行ったのか。」
そう言って円堂カノンを見ると、彼はゆっくり頷いた。そういえば彼は目元が円堂守によく似ている。
「うん。ひいじいちゃんのこと、君とは違う意味で好きだったし、また会いたかった。」
それからしばらく沈黙が流れた。別に時間に追われることもないので、気持ちも急がない。もうミッションはないのだから。ヒビキ提督には、あの一件で見捨てられたと言ってもいいだろう。
「…ひいじいちゃん、君に会いたくないって言ってた。」
ぽつりと静かな調子で円堂カノンが言った。内緒、とでも言いたいように人差し指を口に当てている。
「あの時バダップと会った俺と、今の俺はもう違うから、バダップにはあの時の俺を覚えていて欲しいって。そう言って、ひいじいちゃん毎日話してくれた。」
よく俺の手を握ってくれていたんだ、と言って彼は自分の手を優しく撫でた。
「ひいじいちゃん、君にずっと、ずっと片思いしてたんだよ。」
円堂カノンの目尻は既に赤かった。この褐色の肌で見にくいだろうが、きっと自分もそうだ。
「たまには、来てあげてね。」
そう言って円堂カノンは去っていった。振り向かずにひらひら手をふる様子を見て、彼とはまたこの墓で会いそうだとぼんやり思った。彼が見えなくなり、墓に向き直る。
「少し、間に合わなかったな。」
墓石を指でするするなぞる。いつの間にか日暮れが近付いていた。俯くと、敷き詰められた砂利を踏む自分のブーツが見える。頭に浮かぶのは80年前の円堂守で、それなのに二年前にこの地球からいなくなった円堂守まで愛しく思えた。
「さよなら」
両思いということだったのだろう。皮肉なものだと笑えてきた。一歩一歩後ずさり、それから踵を返す。その場を去るまで一度も振り返らなかった、いや、振り返れなかった。
「バダップ!」
彼の弾んだ声が後ろから聞こえた。それでも足を進める。80年前で聞いた、彼の明るい声だ。
「またな!」
幻聴だと、そう分かっている。それでも足は勝手に止まって。そこから一歩も動かなくなった。
「円堂、守」
すっと振り向く。もう墓は見えず、沈んでいく美しいオレンジしか見えない。膝の力が抜けて、その場にうずくまる。
もうこの世界に彼はいない。それでも、彼が生きていた証拠はそこら辺に散らばっているのだ。
「またな」
もう返事はない。学園に帰る前に、サッカーボールを買おうかと頭の隅っこで思った。

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バダ円企画サイト愛たい様に提出させて頂きました!
書かせて頂いてうれしかったです。
ありがとうございました!


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