コンクリートが雨に打たれて色濃くなっていく。それをじっと見つめながら、小さく溜め息をついた。濡れてしまったバンダナを頭から外す。ランニングを中止して、少し寂れた店の庇に入り込んだ。
「雨か」
独り言と混じって白い息が口から出てくる。羽織ったジャージの向こうから押し寄せてくる冬の朝の冷気に、体の外から中までぶるりと震えが広がっていった。余りの寒さに腕を摩る。早起き出来た、と思えばこれだ。早起きは三文の得だなんて嘘っぱちだ、などと思っていると、何やらこちらに走ってくる人影が見えた。水溜まりに足を突っ込む度に飛沫でジーンズが濡れている。すっぽり被ったフードから覗く赤い髪を見た瞬間、心臓が揺れた。
「おーい!」
そう声を出すと、フードの中の顔がちらりと見えた。驚いたような顔の南雲と目が合い、小さく笑みが漏れた。
「円堂か」
南雲は同じ庇に入ってくると、フードを取った。知り合いや、友達だった頃と同じ呼び名に少しがっくりくる。とはいっても自分も照れ臭いため今だに苗字で呼んでいるのだが。
「どうしたんだよこんな朝に。」
「ランニング。円堂こそ何してんだ。」
「俺も一緒」
そう言って二人で笑った後、何だか会話が続かなくなった。俺が上手く話せない理由は明確、緊張しているからだ。普段なら自然に話すこともできる。だが、雨の日、しかもこんな状況というのは落ち着けない。庇の外では雨がバケツをひっくり返した様に降っているのに、俺と南雲は濡れてもいない地面の上に立っている。土砂降りの中コンクリートの上を滑るタイヤ、クラクション、ボンネットにたたき付けられる雨粒などの音がうるさい。けれども俺達のいる庇の中は切り離された様に静かだ。
「なあ」
不意にそう声をかけられ、南雲の方を向いた。青信号の光に照らされた南雲の横顔は赤い髪とミスマッチに見える。存外長い睫毛がぱしぱしと揺れていた。
「寒くないか」
南雲は俺の手を横目で見た。気付かない内に赤くなっていた手は、かたかたと小刻みに震えている。
「ちょっとな」
そう笑うと、南雲が手を握ってきて、そのまま南雲のジャージのポケットに突っ込まれた。
「寒いって、お前が言ったんだからな」
体が一気に熱を帯びて、冷たかった手先が南雲の手で温められていく。嬉しくてふっと笑うと、南雲に睨まれた。
「何だよ」
そう言う南雲の顔は真っ赤だ。そう言ってやると、信号のライトが当たっているせいだ、と不機嫌そうに言われた。
「手、ずっとそうしててくれよ。」
信号が黄色になっても、青色になっても、南雲の顔は赤いままだった。

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南円企画サイトSUNNY*SUNNY様に提出させて頂きました。
こんな素敵企画様に参加させて頂き、本当にうれしいです!
ありがとうございました!


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