不動は人と触れ合うのが嫌いな様に見える。試合に勝った時もいくらか嬉しそうにしているが、円陣を組むなどという行為は拒む。人と馴れ合えない、というよりは馴れ合わないように見えた。
「どうしようもなく寂しくなることってないか?」
そう言うと、向かいでカレーを口に放り込んでいた不動はほんの少し眉を潜めた。まずいことを聞いたかな、と一瞬思ったが、それでも聞いてみたかったのだ。
「ねえよ」
不動の歯とスプーンが触れてかちりと音が鳴る。その音は耳の中をぐるぐる回って消えていった。
「俺はあるよ」
食事を終えたメンバーが次々食堂を出ていく。俺と不動のカレーはまだ半分以上残っているというのに。
「ああ、そうかよ」
不動は気にする様子もなく食事を続ける。嫌いな辣韮を彼の皿にこっそり移すと、ぎらりと睨まれた。
「別に何もないのに、寂しくなる」
皿を持って不動の横に移動した。不動はやはり気にせず、俺の皿に辣韮を戻してくる。
「今日寒いな」
そう呟くと、不動は小さく頷くだけで何も言わなかった。食堂に暖房は一応あるが、広いため二人でいると少々寒い。
「…今もそうなのかよ」
皿が空っぽになったところで、不動が言った。うん、と返事する。それから彼にほんの少し寄り掛かった。不動が面食らったように目を見開く。
「ごめん、寒いから今日だけ。」
不動の体温を、肩にぴっとつけた耳から感じる。一番体温の低い筈の耳が、今は一番温かい。
「…ん」
不動はそう言って、俺を払いのけるようなことをしなかった。不動は気付いているのかいないのか。不動と俺は似た者同士だけど、俺は嫌な奴だなあと目を閉じながら思った。
「これで最後になるから」
もう俺と不動は、この大会が終わったら会えない。何と無くそんな気がした。