会えない間の、私が知らない守君は確かに存在する。むしろ私にはとっては知らない彼のほうがよっぽど多いのだ。私が知っているのは、随分昔の守君。サッカーの守君は、殆ど今と変わらないけれど、確かに違うところがある。きっと風丸君もそう思っているに違いない。
「守君、泣かなくなったね。」
そう言うと、守君は驚いたように目を開いて、照れ臭そうに鼻をかいた。
「そんな昔のことよく覚えてるな」
私のイメージの守君は、笑っている時と泣いている時が半々くらいだ。守君は小さな頃はサッカーをする時に笑っていて、隠れて泣いていた。
「守君は何で泣いてたの?」
あの頃聞けなかったことを、何とは無しに聞いてみた。昔聞かなかったのは何故かなんて覚えていない。
「ううん、よく覚えてないや」
守君は私から目を逸らして言った。目を合わせないのは守君の嘘をつく時のクセだ。嘘、の言葉を飲んで、小さく笑みを作った。
「変わらないね守君は」
きっと守君が泣いていたのは、不安だったのだろう。昔からリーダーシップのあった彼だけれど、人一倍責任感の強い守君には重圧だったのではないだろうか。今、守君は泣かなくなった。変わりに眉間に皴を寄せることがたまにある。
「頼ってくれてもいいよ。」
そう呟くと、守君は一瞬俯いて、それからパッと顔を上げた。その顔はすでに笑っている。目尻が赤くなっているのが、ちらりと見えた。
「うん。」
彼はきっと私を頼ってはくれないだろう。遠慮しているとかそういうのではなくて、彼の性格だ。だから私も、彼を頼らないようにしたい。
「私を重圧にしないでね。」
彼は泣かないから、私もそうする。泣いては駄目なの、今。