※小説家吹雪と編集者円堂
※完全パラレル

「それじゃー失礼します!」
そう歯を見せて笑った彼は、扉の奥の夜に消えていった。彼、円堂守は、つい三ヶ月前に僕の担当編集者になった男だ。オレンジのバンダナをして真新しいスーツを着る姿は少しアンバランスだが、彼の雰囲気からかそれは余り気にならない。少し童顔で、明朗快活。元々はサッカー雑誌の編集部にいたそうだが、その強い感受性を買われて異動という大変珍しい経歴の持ち主だ。彼は話をしていて面白く、またスランプに陥った時に付きっ切りで励ましてくれたこともある。彼の笑顔を見ると、心がホッとした。そして自分は彼が好きだということを、つい最近自覚したのだ。今まで付き合った女の子はそれなりにいたのでまさか自分がそうだとは思わなかった。なのに、そこまでショックは受けなかった気がする。多分自分は、最初に彼にあった瞬間に一目惚れをして、そして失恋したのだ。余りに僕と違う風に笑う彼に自分から線を引いた。もちろん同性だからという理由もある。けれど第一の理由は、自分を卑下するわけでも、彼を卑下するわけでもなく、ただ世界が違うと思ったから。間違っても彼と何かがあってはいけない、彼を束縛してはいけない、そう考えた。
「ふう」
小さく溜め息をついた。ソファーに座り、彼が嬉々として持ってきた雑誌の切り抜きを眺める。「文豪も唸らせる若き天才、イケメンミステリー小説家吹雪士郎の初恋愛小説!」などと書いてある派手な見出しは、下品で好きではない。こんなにお世辞を並べられても嫌な気はしないがいい気もしない。本人に気付いてもらえなければ意味がない、そんな青臭い言葉をこの歳で言うとは思わなかった。今回自分がこんな甘ったるい小説を書いたことを彼はどう思っているのだろう。何も考えていないかもしれない、けれどきっとそれがいいのだ。もう一度切り抜きを見てみると、何だか無性にアルコールが欲しくなってきた。冷蔵庫から取り出したワインのコルクを抜き、そのままがぶ飲みする。
「飲まなきゃやってらんないよ」
小説の主人公は、マモリとシロ。この二人が出会ってくっついてただ愛し合う、そんな少女マンガのような話だ。ここまであからさまなのだから気付いているのかもしれないが、もうどうでもよくなってしまった。
「小説でくらい、いいよね。」
そう言い終わった瞬間、アルコールのせいか鼻がツーンとした。



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