血の繋がりなんて重要視されない。マモルは僕を気遣ってかは分からないが、たびたびそう言っていた。それを聞く度に僕は何とも言えない気持ちになる。優しいだの頼りがいがあるだの言われているマモルの、些細だけれど強い嫉妬心が言葉の裏に見える気がした。
「そうかな」
いつもそう言って言葉をぐるぐる濁す。マモルも言及はしないし、少し目を細めるだけだ。しかし、今日のマモルは引き下がらずに言葉を続けていく。
「夫婦だって元々赤の他人だし。」
マモルが俯いて小さな声を出す。ぼそぼそした喋り方はマモルらしくなくて、何だか新鮮だ。
「マモルはどうしたいの?」
心の奥で思っていた言葉がつっと口から溢れた。慌てて口を塞いだが、もう遅い。マモルは大きな目を見開いてこちらを見ていた。地雷を踏んでしまったか、と心で溜め息をついた瞬間、マモルが情けない顔で笑った。泣き出すかと思っていた為、少し面食らう。
「わかんない」
ダイスケがいなければ僕は一人だったけれど、マモルには優しい家族がいたはずだ。彼が欲しいものは、ダイスケと暮らす日々。そうしたら僕はどうなってしまうのだろう。贅沢者のマモルは、これ以上僕から何を盗りたいんだ。
「ドロボー」
「…うん」
マモルがバンダナを少しずらした。無意識だろうが、見せ付ける様な態度にイライラする。
「マモル」
マモルの目はダイスケにそっくりで、それにまた腹が立つ。
「僕ね」
本当にイライラしている理由は分かっているのに、素直に出せない自分にまたイライラする。悪循環、ループ。抜け出すのは今しかない、どうでもない瞬間なのに何故かそう思った。
「君のこと嫌いだけど、大好きだよ。」
マモルの欲しい物になりたいのになれない自分が嫌だ。それをめそめそ気にする自分も嫌だ。そう思った結果がこれだった。恐る恐るマモルを見ると、彼は笑っていた。
「…俺もだよ」
そう言ったマモルは普段と変わらない様子だ。けれど、僕にとっては何かか確実に変わった気がした。