※数年後
私が自分を宇宙人だと称してサッカーをしていた奇天烈な時期から早五年立ち、私は大学生になっていた。高校は違ったものの、なあなあでずっと腐れ縁であるヒロトや晴矢も同じ大学に通っており、本当になぜだか知らないが同居までしている。「みんなで住んだ方が家賃とか少なくてすむよ」というヒロトの案で住みはじめたのだが、これがなかなかいい。面倒事はすべて晴矢に押し付けられるからだ。現在家の食事当番、風呂当番、洗濯当番は全て晴矢である。晴矢は「早く金貯めて一人暮らしがしたい」とぶつぶつぼやいている。何故だろうか、あんなに快適なのに。
まあ家のことはどうでもいいとして、大学のサッカー部の強引な勧誘により部室へ連れていかれたら、そこにどうやら同じように勧誘されたらしい、彼、円堂がいたのだ。
「もしかして、ガゼル?」
数年振りに聞いた彼の声は少し低くなっていたが幼さが残っていて、黒歴史である名前と共に色々なことが瞬時に思い出された。
「…円堂」
彼はオレンジのバンダナを指して、にっこり笑った。数年も彼のトレードマークは変わっていないらしい。
「なあ、この後時間ある?」
円堂がそう言って私の目をじっと見る。ゆっくり頷くと、彼もまた満足そうに頷いた。
「久しぶりだよな」
ヒロトは円堂と同じ高校に行った。そこでサッカーをして、彼らの学校は強豪校となり、それを私はテレビで見ていた。その頃からサッカーはしていない。彼と高校を違うところにしたのも、サッカーをやめたのも、全部、。
「俺、ガゼルと一緒にサッカーできてうれしいよ」
円堂が私の目を見てそう呟く。
「頼むからその名前はやめてくれ」
そう言うと、円堂は可笑しそうに声を上げて「ごめんな涼野」と笑った。
「…私も、うれしいよ」
嗚呼駄目だ駄目だ。こんなことを言ってしまっては意味がないではないか、
「俺、涼野のサッカー好きだよ」
やめろ円堂何も言わないでくれ、そのまま立ち去ってくれ。でないと。
「…私も、」
頭の中が真っ赤になったような気がした。ああ、高校三年間の意味なし。君から離れれば、サッカーから離れれば、どうにかなるだろうとそう思ったのに!
「…好きだよ」
もうお終いだ。好きだよ円堂、なんていつかのヒロトみたいなことは言いたくない。だけれども今はそれしか言えないのだ。
「ありがとう」
そう笑う円堂が酷く懐かしくて、憎らしくなった。