※捏造注意
「待てよ!」
暗い夜道なのに次郎はすいすいと駆けていく。俺はといえば、家から出る際に引っつかんだ、彼と出会った時に使っていた提灯のおかげでなんとか走れているくらいなのに。
「待てって!」
次郎の高級そうな着物がひらひらとはためいている。夜の冷たい空気のせいかしんと静かな小路には、俺と次郎の呼吸音しか聞こえない。袴の俺は着物の次郎に比べれば走りやすく、距離はどんどん縮まっていく。近くの小川に月が反射してきらきら光っていた。
「おい!」
暗闇に次郎が紛れていく。白い艶やかな髪の毛が黒に紛れて、ちらりと見え隠れした。次郎が見えなくなる度に酷く呼吸が乱れて、彼が消えてしまう気がする。それが嫌で嫌で仕方なくて涙が出そうだ。次郎と一緒にいたいのに、
「次郎!」
そう叫んだ瞬間、次郎がはっとしたように後ろを向いた。スピードが緩んだ隙を見て彼の肩を掴んだ。思いの外体の力を抜いていた次郎は特に抵抗もなしに、掴んだ方向に倒れていく。その衝撃に地面に接吻をしてしまった。勢いは止まらず、縺れて二人で土手を転がっていく。何とか小川の手前で回転は止まった。
「いたた…ごめん次郎、大丈夫か?」
そう言いながら体を起こす。次郎は俯せたままピクリとしなかった。さあっと血の気が引く音がして、思わず次郎を揺さぶった。次郎の肩がびくりと震える。思わずほっと息が出た。
「次郎!よかった…、ごめんな」
それでも次郎は動こうとしない。少しだけムッとして、次郎の体をぐっと起こした。
「じろ、」
そこで声が止まった。普段髪や眼帯で見えなかった目が覗いていたのだ。俺らと同じく転がった提灯の光に照らされた目は、両方色が違っていた。
「お前には、知られたくなかった」
次郎が小さくそう呟いた。