夢を見ているのだ。足元がふわふわとして踏んだ心地がしない。重力が感じられず、体がすごく軽い。先程まで合宿所のベッドに寝転がっていたことは覚えているから、これは99%の確率で夢だ。
「1%は?」
そんな言葉が聞こえて、声の方向を見る。そこには笑うフィディオがいた。フィディオがこんなところ−自分にもどこにいるか分からないが−にいるはずがないので、これは夢だと確定した。今頃彼はイタリアエリアで寝息を立てているはずだ。
「死んじゃって天国にいる、とか」
「現実って可能性はないんだね」
フィディオがまた笑った。くっくっ、そんな押し殺す様な笑い声。
「まあ、これは夢だよ。というか俺の夢かな。」
フィディオがそう続ける。言っている意味はよく分からなかったが、とりあえず頷いておいた。
「俺のための夢、だから俺の思い通りに動く」
そう言うとフィディオはジャージのポケットから粉薬の様なものを出した。彼はそれを口に含みこちらを見てにこりと笑った、と思ったら顔がいつの間にか近づいている。あ、と言うまもなくフィディオにキスをされた。唇を通して粉薬が口の中に入ってくる。彼が飲んだというのに、粉薬はまださらさらしていた。
「あっ、まー。」
粉薬だと思っていたものはすごく甘かった。甘いものは普通に好きだが、そういう凡庸な甘さでない。何と言えばいいのか分からないけれど、すごく質のいい甘さだ。ずっと味わっていたい、その思いが通じたのか唇が離れても甘さは続いていた。

「今俺は君に呪いをかけた」

そのフィディオの声を聞いた途端、目がぱっちり覚めた。頭のすみに先程ああ言ったフィディオの顔が思い浮かぶ。頭をぶんぶん振ったが、頭からフィディオが消えない。確かにこれは呪いにかけられたな、そう思うと少し笑えた。



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