※完全パラレル
※数学教師基山と体育教師円堂

目の前には数字の羅列。数は一番美しいと自分は思っている。小学生の頃から算数が好きで、だが数学教師になったのは何となくだ。教師になりたかった訳ではないが、数学研究をするのは費用がかかる。数学と触れ合いながら資金を貯められる職業を考えたら、教師に思いあたった。これは思いの外当たりで、この学校の数学準備室には数学の資料が山ほどあり、だから最近も夏休みだというのに朝早くから夜遅くまで学校にいる。数学が好きで、下手したら一日中机と向き合っていた。変人扱いされてもしょうがないのだが、自分は意外と顔で得をしている。皆が持て囃してくれ、バレンタインには生徒から袋一杯チョコレートを貰う。まあその方が過ごしやすいしコネもきくし、悪くはない。

旧校舎の一階、数学準備室。窓越しに校庭を走る生徒を眺める。外では地面が太陽にじりじり照らされて酷く暑そうだが、クーラーの効いたこの部屋はいっそ寒いくらいだ。他の数学教師は部活の顧問やら夏休みやらでここには自分一人しかいない。クーラーのせいでほんの少し淀んだ空気を換気しようと、窓を大きく開けた。静かだった部屋に音が入り込んで、跳ねて、広がって、弾ける。賑やかな生徒の声、みんみん鳴く蝉、砂を蹴る音。熱気に圧倒されてしまう。ふと目の前を人が横切った。ぱっと目があう。オレンジのバンダナが特徴的な、少し童顔の青年。そこで彼が先週、産休の教師の代理と紹介されたのを思い出した。名前は円堂守。彼はにっこりと笑った。
「基山先生、休憩ですか?」
え、と声が漏れる。彼はジャージの袖を捲くりながら微笑んだ。
「ここでいつも机に向かっているか、調べ物をしていらっしゃるでしょう?練習の間とかここ通るんです。」
どうやら彼に見られていたらしい。確か彼はサッカー部の顧問もしていた。数学が好きなもので、そう言うと彼は驚いた様に目を丸くした。
「俺は、学生時代一番嫌いでしたよ」
ははは、そう体を揺するように彼が笑う。額から頬へ汗がすうっと伝った。
「基山先生、サッカーしません?」
彼がぱっと顔を上げて言った。突然の申し出に思わず口をぽかんと開ける。サッカーは嫌いではないけど、余りしたことがない。円堂先生がくすっと笑った。
「先生ってそんな顔もするんですね、知らなかった。」
なぜだか恥ずかくなり、耳が熱くなるのが分かった。中々動かない俺に痺れをきらしたのか、円堂先生が窓から入ってくる。それから俺の手を握った。
「皆も喜びます、行きましょ」
問答無用に手を引っ張る先生を見て、断ることを諦め溜め息をつく。それでも嫌だとは思っていない自分がいるのに驚いた。

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季節はずれもよいところ


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