※ちょこっとぬるいエロ

今俺は想像妊娠している。もちろん義務教育を受けている身なので、ちゃんと保健の授業も受けた。だから男が妊娠しないことは知っている。
「コンドームだってしてるしね」
吹雪はちょっと的外れなことを呟いて笑った。俺の馬鹿な一人言に一々反応してくれる吹雪は本当にいい奴だと思う。
「つわりとかあるの?」
「よく分かんないけど、吐き気はたまにする。」
そう言ったら、なんだか喉に違和感を感じた。先ほど食べた握り飯が出てきそうな感じがして、思わず口を塞ぐ。驚いたように吹雪がこちらを見た。
「嘘じゃあ、ないの?」
「嘘じゃない」
少しむっとして強く言うと、吹雪は腕を組んで考える素振りをした。

吹雪とセックスをした三日前を思い出す。彼が果てる瞬間、腹部に熱さを感じた。恐らく、コンドームが破れていたのだろう。吹雪は気付いていたかどうか知らない。その瞬間、ああ孕んだかも、と思った。改めて思い出すと阿呆なことだと感じる。人がそんなことを言ったら確実に馬鹿にする。それなのにそう思ったのだ。

「名前は何にする?」
「生まれねーよ」
吹雪がそう笑ったので、小さな声で返す。吹雪はキョトンとしたように目をぱちぱちして噴き出した。
「違うよ、子供じゃなくて。男の想像妊娠っていう現象。初めて聞いたから名前でも付けたいなあって思って。」
また的の外れたことを言った吹雪に苦笑する。そんな的外れなところを、子供が欲しくなるほど好きになったのは自分だけれど。
「妄想、だろ。ただの妄想だし。」
あるはずのない子宮が熱くなった気がして、くっと唇を噛んだ。



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「見えない臓器の名前は」
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