してはならないことは何度かした。それもこれも不可抗力だ、と思っている。駄目なことは駄目だと言う奴がいなかったからだ。人間は叱られて、それを駄目だと感じたり、叱られるのが怖いからしてはならないことをしなくなる。俺にはそれがなかった。
「言い訳だ」
誰かが言った。きっとそいつは何も知らないのだ。人間を存外強いものだと思っている。そいつも同じ状況にいたら、そんなこと言えなくなるのに。
そんなことを思いながら、隣に寝る円堂を見た。光がカーテンの隙間から漏れて、髪の毛が茶色に輝いている。開いた口から透明の涎がちろりと垂れていて笑えた。
「お前、親代わりかもな」
そう呟いたが、円堂が起きる様子はない。自分は彼にやってはならないことについて叱られ、怒られた。最初の内は反発したものの、結局ほだされてしまった。
「…ん?」
円堂が目を開けた。薄い茶色の目が見える。起きたか、そう言って茶色の髪を手櫛で整えてやった。
「おはよ、」
円堂は瞬きを二三回して笑った。その笑みが一瞬だけ誰か違う人間に見えて、驚く。
「いい天気だな」
カーテンを開きながら円堂が言う。いつかは彼も、教えてやる人間として、妻や子供にそう言うのだろう。日差しが眩しくて目を閉じる。何だか泣きそうになった。


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