縋るものが欲しいのだ。無くならない確かな、縋るものが欲しい。俺は親がいなくて、だから頼るものがいない寂しさを知っている。父さんは俺の一番頼ることが出来る人だった。父さんの背中に顔を埋めて「父さん」と呟くと、父さんが「なんだい」と優しく聞いてくる。そのことが本当に嬉しくて、涙が出るくらいのものだった。父さんの背中は温かくて、それでも一人占めすることの出来ない悲しい冷たさがあった。俺には、「ヒロト」という嘘の名前だけれども、特に可愛がられている自覚があった。それでも吉良ヒロトにはなれないから一線引かれていた。自分一人の縋れるものはなかったのだ、最近まで。
「ヒロトは、ずるい」
何度も言われ続けた言葉を、苦々しそうに風介が言う。何も知らない癖にと呟くと晴矢が舌打ちをした。
「お前は俺の邪魔ばかりだ。父さんも、円堂も。」
そんなの知らないよ。そう思いながら二人を見る。俺ら、家族みたいなものじゃないか。だからこそこんな風に言い合いも出来るのだろうか。
「俺は、俺らは、円堂君に縋ってるだけだよ。」
そうはっきりと言ってやると、彼らは一瞬驚いた顔をして、それから俯いた。結局俺らは同じなのだ。どうしても誰かの温かさが欲しいのだ。
「俺は彼の背中にもたれたいだけ」
俺も、と晴矢が言った。風介は何も言わずに髪の毛をぐしゃりと掻いている。円堂君が三人いればいいのに。



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