緑川のことを知りたい、そう思ったがそれは無理な気がした。色んな意味で彼と自分は違うのだ。彼は自分より一歳年下だけれども、自分に比べて多くのことを経験したはずだ。そんな顔をしているのだ、緑川に限らずおひさま園の皆は。まだ子供っぽさが残る顔つきなのに、どこかしゃんとしている。話す際に目を真っ直ぐ見て、きりりと頬を紅潮させる。些細なことで喜んだかと思えば、大きなことに表情を変えない。ふざけて、笑って、怒って、泣いて、していることは俺達となんら変わりはないのにどこか違う。とても分かりにくい例えだが、緑川は明るくじっとりした雰囲気を持っている。一目みただけではただ明るい様に見えるが、言うことの裏に何か暗いものがちらりと覗く。余り長く話していると、それがひたひたと緑川の言葉の後ろをついてくる感じが伝わってきて、怖くて話を切ってしまう。恋心を感じているのに、随分酷い奴だと自負しているが、どうにも恐ろしいのだ。緑川が話しながら変わっていく。歯を見せた笑いから真っ赤な舌が見え、黒目がきょろきょろ動く。俺が話を切ると、またいつもの感じに戻る。彼のことを知りたい、けれども自分は怖がっているのだ。あの薄い色素の睫毛に覆われた笑いが見たいと思ってしまう。でも本当は緑川を怖がっているのではなくて、恋だと言えない自分に呆れているのだけれど。
「俺は好きだよ、円堂のこと」
「なんで、どこが?」
「恋に理由はいらないって言うだろ」
「そんなの知らなかった」
「どんな物事だって起こることに理由はいらないんだ」
「そうなのか?」
「そうだよ」
「じゃあ俺も、緑川が好きだ」
緑川が恐ろしい笑顔を浮かべて、それからいつもの顔に戻った。



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