芸術鑑賞が好きだ。休みの日には美術館に足を運ぶことも少なくない。好きな絵を見ると10分はそこで立ち止まったりしてしまう。あの静かで穏やかな雰囲気はとても居心地がいい。が、本当に好きなのは芸術鑑賞、いや人間観察だ。陳腐な言い方だが人間というのは存在が芸術品だ。頭には数えきれないほどの髪の毛、ふっくらと赤みをもつ黄金の産毛が生えた頬、指の先のつるつるした薄桃色の爪、言い切れない程人間の造形というものは素晴らしい。自分が神を信じている理由は、神以外人間の造形をここまで精密に美しく作れるものはいないと思ったからだ。そんな芸術品が山ほど道を歩いているこの街、地球は素晴らしい。芸術を自ら捨てるものや他の芸術を壊すものがたまにいるが、それには理解出来ない。その人は芸術について無知なのだ。自分だったら、間違えても壊せやしない。また、人間の造形で美しいのは外見だけではない。中身、つまり臓器だって美しい。人によればグロテスクに見えるだろうが、俺はすごいと思う。あのぬめぬめしたピンク色が自分の体内に収納されているかと思うとドキリとして、何故か、自分を大切にしなければなあと考える様になる。あんな細かで緻密でそれでいて鮮やかなものこの世にはあれ以外ないだろう。それを全てまとめて、人間は芸術だという意見に至る。俺は今芸術に囲まれて過ごしているのだ。何と幸せなことだろう。しかしそれは易々と触れられない寂しさも付き物なのだ。
「触っていいよ、ヒロト」
円堂君が言った。彼は俺の中で特に素晴らしい芸術だと思う。単に好みの話になるかもしれないが、顔の造形だけでなく性格にまで惹かれた。彼はいい、そう思った瞬間にもう俺は彼に触れなくなった。
「円堂君は目の前に一億円のダイヤがあったとして、そう易々触れるのかい。」
小さな声でそう呟くと、円堂君は黙って俺の手を両手で包み込む様に掴んだ。温かな熱が一瞬にして手首を伝い、そこだけ別の物みたいに熱さを持った。慌てて引っ込めようとした手を円堂君は引っ張って、自身の頬に当てた。
「ヒロトには俺がダイヤに見えるのか」
円堂君は笑った。それから、ヒロトの手は冷たいなと呟いた。その日、初めて円堂君を抱きしめた。


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