※三年後

「馬鹿!」
兵太夫が声を酷く荒げた。兵太夫がそんな風に怒るのが珍しくて何も言えなくなる。眉を吊り上げて唇を噛んだ兵太夫はぶるぶる震えていた。
「ごめん」
そう小さく呟くと、彼は手をぐっと握った。兵太夫は、上級生なってからいい意味で無邪気ではなくなったと思う。代わりに、忍者として必要不可欠な冷静さを持った。一年生の頃の様にげらげら笑う風でもなくなった。けれどたまに見せる、目を細めて歯をちらりと覗かせた笑いは変わらず、それを見る度何だか安心する。表面は変わったけれど性格は変わらないのだなあ、なんてきっと皆そう思っているのだろう。
「何で、そんな馬鹿なの」
今度は吐き出す様に、溜め息を交えて兵太夫が言った。怒るというよりは呆れている様だ。
「保健委員の癖して」
兵太夫が私の腕をがっと掴んだ。ぽたりと血が足れる。実習の時に出来てしまった傷だ。見た目よりは酷くないが、如何せん血が多く出ている。敵から逃げている最中、不運なことに木に引っ掻けてしまったのだ。何とか逃げ切り、少し頭がふらふらしたところにいきなり兵太夫がやって来た。汗だくで凄い剣幕で、それから冒頭に至る。
「馬鹿、馬鹿、馬鹿野郎!一昨日帰ってくる予定だっただろ!」
兵太夫はそうまくし立てると肩の力をすっと抜いて、私の腕を掴んだ。まだ眉間にはきゅっと皺が寄っている。
「帰るよ」
強い力で引っ張られこけそうになる。兵太夫が私の体を支えて、そのまま肩に担いだ。
「手間がかかる!」
こけそうになったのは兵太夫が引っ張ったからだよ、とはとても言えそうにはない。彼の逞しくなった背中は、少し薄汚れていて土くさかった。
「ありがとう」
結構な時間探してくれたんでしょ、そう呟いたが、兵太夫は何も言ってくれなかった。

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いつも冷静だけど余裕なくなる兵太夫萌えです


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