円堂があの鉄の乗り物で海を超えた島に行ってしまってから息が苦しくなることが増えた。サッカーをしている時はいつも、教室にいる時はしょっちゅう、テレビを見ている時はたまに、食事をしている時は稀に。突然首を絞められた様な苦しさを感じながら毎日を生きている。このことは誰にも言っていない。言ってはいけないような、そんな気がするのだ。興奮したような松野が話し掛けてきて、携帯を眼前に突き出してきた。テレビ機能の搭載されたそれには『イナズマジャパン 快勝!』という文字とインタビューを受けている円堂の姿が映し出されていた。瞬間、あんまりにも息苦しくなって倒れた。

目をあけると白い天井が広がっていた。昔行った円堂の家によく似た天井だ。そう考えると同時にまた息が詰まって、少しむせた。
「起きた?」
カーテンから松野が顔を覗かせる。
「貧血なんじゃないの?寝とけば。」
そう言うと松野はベッドの隅に俺の鞄を置いて、さっさと保健室から出ていった。しかしこれも奴なりの優しさなのだ。それが分かる様になったあたり松野との付き合いも長くなっている証拠なのだろう。付き合いの長さ、という言葉が頭をかすめた途端また息が苦しくなった。円堂の顔が浮かんでは消えていく。俺と円堂だって付き合いは長い。なのに、
「…はあ」
隣にいれないことが悔しい。少し潤んだ目を擦ると同時に、携帯が震えた。慌てて手にとりボタンを押す。円堂からのメールだった。喉の奥の方が、また詰まっていく感じがする。円堂からのメールは実に下らない、周りであったことの報告みたいなメールだった。しかし今の俺には何ともうれしいものなのだ。下ボタンを押し、最後の行に目を通す。そこには、半田に会いたいよ、と絵文字も何もない文面が浮かんでいた。
「…そっか」
慌てて返信ボタンを押し本文を打つ。それから、送信ボタンを押すと、何だか泣きそうになった。

(俺もお前に好きって言えなくて苦しいよ)


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ロマンチック止まらない二人





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