彼を好きになる前に軽い気持ちで、いや本当にそう思っていたのだが「お前はいい友達だ」と言ったことがある。確かにその言葉は思ったことそのままだった。だが、言わなければよかったと今頃になって後悔している。ヒロトはその言葉を全身で受け止めたからだ。
「円堂君と俺は、友達だから」
彼を好きになってからこの言葉を言われ、心臓にずがんと銃弾を撃ち込まれた気分になった。いつ言われたかはもう記憶にない。ただ、その時笑ったヒロトの顔はよく覚えている。半袖のユニフォームから伸びる白い腕、赤い髪束の先っぽについた丸い汗、首にかかった薄い紺のタオル。ヒロトは本当に嬉しそうな顔をしていた。
「友達なんて、初めてかもしれない」
おひさま園の皆は家族みたいなものだから。ヒロトが口を開く度に俺は何も言えなくなった。ヒロトが笑顔になる度に俺の顔からは何も無くなっていく。
「うん、そうだな」
いつものトーンで、声を張り上げてそう言った。ヒロトはずるいのだ。俺はお前を無下に出来ないと知っているのに。ごまかす様に首筋を掻く。俺はお前に友情なんか感じてない。罪悪感がのしりと心臓を圧迫して、命が薄くなった気がした。



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