「らーんたろっ!起きろー!!」
すぱあん、と音を立てて障子が開く。冷たい空気が一緒に入ってきて、私は思わず身震いした。
「………………何」
無視しようかと思ったが、団蔵の性格上起きるまで何かしらをしてくると思い体を起こした。溜息をつくと、白いきらきらした煙が見えた。
「雪!超積もってるぜ!遊ぼ!」
「…もう六年なのに…」
「ほらほら!立った立った!!」
団蔵は私の話を聞く気はないらしい。仕方なく布団から離れて羽織りに袖を通す。体の中がぶるぶる震えるような寒さなのに、団蔵はけろりとしている。
「きり丸しんべエは?」
「きりちゃんはバイトしんべエはデート。朝早くからすごいよね」
特にしんべエは大変だ。上級生になりくのたまとの付き合いに先生が目を光らせている中おシゲちゃんに会いに行くのだ。
「本当だな!まあほらほら、行くぞー!元気に鍛練兼雪合戦だ!!」
団蔵が元気よく飛び上がる。五年前に卒業した某会計委員長さんお元気ですか、彼はテンションが貴方に少し似てきました。左吉はむしろ三年前の委員長に似てきました。濃いです。
「みんなもうやってるの?」
「おう!!さっきまで虎若VS三治郎してたぞ!すごかった!」
「それは見たかった…どっちが勝ったの?」
「三治郎が精神攻撃しかけてな」
「うんごめんわかった」
雪をざくざく踏みながら団蔵の後ろを歩く。だいぶ伸びた団蔵の髪には、雪が少しのっていた。
「あ」
雪が地面を覆っていて分からなかったのだ。まさか地面に、三年前卒業した穴掘り小僧先輩が記念に掘っていった数え切れない数のうちの一つがあるなんて。
「ああああ」
べしゃん、と団蔵を巻き込んで盛大に転んだ。ぎりぎり穴には落ちなかったが、着物が濡れた。
「あーあ、寝間着が…」
「俺の心配は」
団蔵の上に覆いかぶさったまま溜息をつくと、下から抗議の声が聞こえた。何だか寒くて厚くなった胸板に顔を埋める。
「あったかー…」
「俺の背中は超冷たいけどな」
団蔵が溜息をついて私の髪をぐしゃぐしゃ撫でる。それが心地好くて目を細めた。
「ねえ。雪合戦やめてさ、ずっとこうしてたいな。そうしよう」
「風邪引くから却下」
そう言う団蔵の頬をゆるく引っ張ると、団蔵は少し笑った。
「皆とやる雪合戦も楽しいぞ」
「楽しくないとは言ってないよ」
団蔵が勢いよく起き上がる。私の上半身も一緒に起き上がった。
「最後だもんな、死んだ後皆と極楽で思いで話できる様に遊んでおこうぜ」
団蔵は私の髪を撫で付けるとにかりと笑った。
「…うん。」
雪を払い落とし立ち上がると、団蔵が手を強い力で握った。
「俺はお前が死んでも泣かないからな、」
「私は泣くかな」
「泣くなよ。どうせ死んだらまた会えるんだ」
「何その自信」
「好きだから」
団蔵が走り出した。私も同じように足を動かす。
「恥ずかしいし意味わかんない」
「うっせ!」
「あ、きり丸としんべエもいる。帰ってきたんだー」
「無視すんなよ!」
目の前には、ムキになって顔を赤くする団蔵とこちらに手を振って笑っている皆が見えた。死んだ後もこうなら私は何も怖くない。

(恋が恋たる所以は恋と名付けられたことにある)
(一緒であれば怖くないということが恋、)




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