気持ちを落ち着ける際、お茶を立てる様にしたのは三年程前からだ。元々お茶は好きだし、お茶を立てている時は無心になれる。
「最近、お茶を立てる回数増えたよね。」
丑三つ時。なぜだか高ぶる気持ちを抑えるため、お茶を立てていたら伊助を起こしてしまった。「ごめん」と小さく謝る。眠そうな目を擦りながら伊助が呟いた言葉に、どきりとした。
「何か悩み事?」
よく気のつく友人は僕のことなどお見通しらしい。正直に白状することにした。
「僕勉強が好きなんだ」
「うん、知ってる」
「それなりに本も読んできたし、色々勉強してきた。」
「うん。」
「でも、わからない」
「何が?」
口の中が渇いてきて、お茶を一気に飲み干す。伊助は何も言わずに待ってくれていた。

「恋が」

しばらく部屋は沈黙に包まれた。それを破ったのは、夜中だということを知らないような、大きな伊助の笑い声だった。
「あっははははは!!」
「な、何か可笑しい?」
「あははははは!!庄ちゃん、え、あははは!!」
顔がほてってきて、何も言えなくなった。伊助は何がそんなに可笑しいというのだ。
「庄ちゃん、ほんっとに勉強しかしてなかったんだね」
あははは、からからと伊助が笑う。あまり良いことは言われていないのに何故だか腹は立たない。これは彼の笑いに一切嫌みは入っておらず、また何年も一緒にいた仲だからだろうか。
「ふふ、庄ちゃんがあんまり真面目なものだから、」
伊助は一呼吸置くと、にぃっと笑った。
「今更自覚したの?乱太郎のこと」
本人以外皆知ってるよ、伊助がまた笑う。
「え」
後々聞くには、僕のその時の顔はよっぽど阿呆くさかったらしい。まあ伊助の笑い声に気付いた他の奴らが来る足音を耳にしながら僕の意識は真っ白になってしまったのだけれど。

(どんなに優れた頭脳も、恋の前には無力である)
(有力なのは、自覚だけ)



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