母と父の指の先は、いつも肌色ではなかった。染料できらきら光る手で僕の頭を撫でる二人の顔は、僕の大好きな顔だ。染料の匂いを嗅ぐ度に二人を思い出したりする。元気かな、とかぼんやり思ったり、手紙を送ってみたり。匂いと記憶は深い繋がりがあると聞いた事があるが、誰に聞いたのだろうか。恐らく聡明な同室の友人だろう。僕の場合匂いだけでなく、染料を見たりしても思い出すわけだが。まあそれは当然のことかとため息をつくと、吐いた息が白く光った。
「伊助、」
乱太郎が柔らかい声で言う。彼の声はいつも柔らかで、耳によく馴染む心地好い声だ。
「なに」
そう声を出すと、息がまた白く光った。少し寒くて、羽織りを強く握る。
「いい天気だね」
太陽がきらきらして、雪を照らしている。反射した白は目に眩しく、僕は目をつむった。
「うん」
君とこの景色を見れるのも後少しだね。そう笑うと、乱太郎が笑った気がした。
「好きだよ」
ふんわりと薬の匂いがする。乱太郎の匂いだ。
「ありがとう」
これから薬を嗅ぐ度に乱太郎のことを思いだすのだろうか。この、愛しい、という気持ちも思いだすのだろうか。そう思うとなんだか泣きたくなった。

(およそ一生の恋というものはない)
(だって、愛に変わるから)




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