じりりんじりりん。ヒロトは黒電話の置いてある台の前に座ってにこにこと笑っていた。指はくるくるとダイアルを回しており、番号を暗記しているのか電話帳なんてものは見ていなかった。それにしても、随分懐かしい物だ。黒電話なんて今やアンティーク扱い、それをヒロトが持っているのは何だか不自然だった。
「誰にかけてるんだ?」
いつまでもくるくると指を動かすヒロトを見てそう呟いた。片手に受話器を持ったままヒロトがこちらを見て、それからにこりと笑った。
「円堂君に」
は?と声が出た。俺はここにいるし、ズボンのポケットに入った携帯はぴくりとも鳴っちゃいない。けれどもヒロトはにこにこしている。
「円堂君にかけているんだよ」
ヒロトはそう言うと黒電話に向き直った。

数日してから父ちゃんの方のじいちゃんばあちゃんの家に行った。居間でごろごろテレビを見ていると、隅っこに黒電話が埃をかぶっているのを見つけて驚いた。台所で母ちゃんと料理をしていたばあちゃんにそう言うと、触っても構わないよと言われたので、色々といじくっていた。しかしヒロトはにこにこ楽しげに笑っていたが、そんなに楽しいものとは思えなかった。その時ぼんやりと、今でも通じるのかなと考えた。電話線が切れているのを見たのに、それでも何故かそう思ったのだ。受話器を片手に、出鱈目な番号を回した。回す度にがちゃがちゃ古めかしい音がする。知らない番号、でもそれはよく知った番号な気もした。暫くの沈黙があり、やはり通じなかったと受話器を下げた。と、いきなりガチャリという音が受話器から聞こえた。
「やあ円堂君、待ってたよ」
ヒロトの声だった。この時初めて、ヒロトのあの行動は俺に電話をさせるためだったのだろうと思い、苦笑が漏れた。



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