※一→秋→円→一
※どうしようもない

人類はいつ誕生したんですかー、なんて質問したって先生は教科書をちらりと見てそこに書いてある通りに答えてくれるだろう。先生も生徒もそれで納得して、その何万年もの間に誰かが何をしてどうしましたなんて考えてもいない。例えばこの先俺がサッカーを続けてすごいGKだと名を馳せても、死後に歴史の教科書や何かに載るわけがない。学生の「円堂守って何した奴だっけ?」とかいう会話のネタにもされやしない。だって別にサッカーしてるだけで日本を変えるわけでもないし。サッカーに詳しい奴がたまに瞑想に耽るその頭の隅っこに存在するだけ。そんな風に、人一人がしたことは後の世にほんの一抓みしか伝わらない。徳川家康は参勤交代をしました、ペリーが黒船に乗ってやってきました、だから何。参勤交代をする人の家族がどんな気持ちだったかとか黒船に乗ってた人がどんな人だったとか、テストに出ないから覚えません。だから別に、後百年もしたら俺はとっくに死んでて、今こんな風に俺が何を考えているかをわざわざ覚えようという奴もいないわけで。それなら今俺が何をしようがどうせ後には残らないんだから、どうしたっていいと思う。この何万年もの人類が生きた歴史の中、同じ考えの奴はそれこそ山ほどいたはずだ。マイナーな存在は切り捨てられる、これはどこの世界も共通かもしれない。
「秋は円堂が好きなんだってさ」
見舞いに行ってからの帰り際、一之瀬はにっこり笑ってそう言った。とても優しい表情だった。
「悔しいけど、俺、円堂には多分勝てないと思う。」
一之瀬の口は普段以上にぺらぺらと動いた。病室を出たら、秋や、皆が待っているというのに。そう思うと一之瀬が憎らしくなってきた。
「…よろしく頼むよ。」
一之瀬が弱々しく笑うのを見てカアッと頭が真っ白になった。秋は可愛いよ、優しいよ、魅力的な女の子だよ。俺だってお前がいなきゃ、きっと秋を好きになって何度もデートして数年したら同じ苗字にだってなってただろうさ。何で俺、お前好きになっちゃったの。
「ああ。」
低い声が唇からこぼれた。これは人類が誕生してから今の今までずっと俺の様な異質な性癖を持った人間が苦労してきた痛みなのだ。売店で買ったコーラを持つ手が震える。この中身を彼の頭からかけて「お前が好きだ」と言えたらどんなにスッキリするだろうかと思った。

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中二病患者ですみません



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